■幾何的な等式と不等式(その7)

【1】トリチェリのラッパ

 「直角双曲線y=1/xのx≧1の部分をx軸のまわりで回転させて得られる」のがトリチェリのラッパである.この無限に長いラッパの表面積は無限大であるが,体積は有限となる逆説的な立体である.

  V=π∫(1,∞)(1/x)^2dx=π[−1/x](1,∞)=π

  S=∫(1,∞)1/x(1+1/x^4)^1/2dx>∫(1,∞)1/xdx=[logx](1,∞)=∞

 ラッパ形でなく塔形にすると調和級数に帰着され,複雑な積分計算を回避することができる.

  V=π∫(1,∞)(1/x)^2dx<πΣ1/n^2=π^3/6

  S=∫(1,∞)1/x(1+1/x^4)^1/2dx>2πΣ1/n=∞」

 また,トリチェリのラッパは重心をもたない.

  G=π∫(1,∞)x(1/x)^2dx=π[logx](1,∞)=∞

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【2】平均・分散のない分布

 トリッキーに思われるかもしれませんが,母平均や母分散は常に存在するとは限りません.たとえば,

  f(x)=1/π(1+x^2) -∞<x<∞

を取り上げてみましょう.この関数は∫f(x)dx=1/π[tan-1(x)]=1ですから確かに確率分布(コーシー分布)です.しかし,この確率分布は偶関数だから平均は0であると単純に考えてはいけません.0は中央値ではあっても,この分布は平均をもたないのです.

 実際,∫xf(x)dxのリーマン積分は1/π*1/2log(1+x2)であり,積分∫xf(x)dxは不定形∞−∞となるから定義されません.平均値が定義されないならば,もちろん,分散も定義されないということになります.

 コーシー確率変数が平均値0をもつという命題は,確率論の観点からすると,コーシー分布に対しても中心極限定理が成立することになり,正しくないだけでなく危険でもあります.繰り返しになりますが重要なことですので,もう少し考察してみましょう.

 コーシー分布では,グラフの対称性からその平均値が0であると定義するのは自然と思えます.実際,対称性を利用して有限区間を無限区間まで拡張して考えると,その値は0となります.

  lim(a→∞)∫(-a,a)xf(x)dx=0

このことから,いかなる平均値ももたないと主張することのほうが大袈裟だと思われるかもしれません.しかし,リーマン積分では,a,bを独立に無限大としたときの極限値

  lim(a→-∞,b→∞)∫(a,b)xf(x)dx

が収束することを要請しているのであって,この値は不定形∞−∞となるから発散すなわち平均は存在しないと考えるのです.

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 コーシー分布以外の確率分布では,レヴィ分布(ブラウンノイズ関数)

  f(x)=1/√(2π)x^(-3/2)exp(-1/2x)

アノン分布

  f(x)=(1-cosx)/πx^2 -∞<x<∞

も平均値をもたない分布として知られています.

 また,離散分布でも平均値の存在しない確率分布があり,たとえば,

  p(x)=6/π^2x^2 (x=1,2,3,・・・)

の平均値は

  6/π^2(1/1+1/2+1/3+・・・)

調和級数となるため,無限大に発散してしまいます.

 なお,離散型・連続型以外の特異型分布関数もあり,たとえば,カントル階段関数は特異型分布関数の1例です.特異分布に対してはルベーグ積分の概念が必要になることもあります.ここではその種の議論を必要としないので,さしあたってリーマン積分で十分であろうと思われますが,実用上用いられる密度関数は連続関数であり,ルベーグ積分とリーマン積分は一致します.したがって,コーシー分布やブラウンノイズ関数に対してはルベーグ積分であってもうまくいかないことを申し添えておきます.

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