■行列式の計算(その4)
【1】平行体の体積とグラミアン
面心立方格子や対心立方格子などの結晶格子には,空間中の格子点の位置を表すのに単純並進ベクトルと呼ばれる3つの基底ベクトルがあり,その長さと角度によって,それぞれの格子の構造を特徴づける係数が得られます.もちろん,3つのベクトルa↑,b↑,c↑の選び方は一義的には決まらず,いろいろな選び方があるのですが,平面上の格子に対しても同様に,R^2のベクトルの集合を考えることができます.
2つのベクトルa↑,b↑を基底とする平行体(平行四辺形)の面積は,外積は
a↑×b↑
3つのベクトルa↑,b↑,c↑を基底とする平行体(平行六面体)の体積は,スカラー三重積
(a↑×b↑)・c↑
すなわち,外積a↑×b↑とベクトルc↑の内積で与えられることは,本コラムがターゲットとする読者層ならばすでにご存知であろうかと思われます.
このような点は,すでに初学者の域を脱した読者には間延びして感じられるかもしれませんが,あえてこのようなことを書くのも,これから述べる平行体の体積とグラム行列式(グラミアン)の関係をいいたいがためなのです.
|a↑|=a,|b↑|=bとすれば,平行四辺形の面積は,
S=absinθ
ですから,
S^2=a^2b^2(1−cos^2θ)
=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2
=|a↑・a↑ a↑・b↑|
|b↑・a↑ b↑・b↑|
同様に,平行六面体の体積は
V^2=|a↑・a↑ a↑・b↑ a↑・c↑|
|b↑・a↑ b↑・b↑ b↑・c↑|
|c↑・a↑ c↑・b↑ c↑・c↑|
で与えられます.
これらのように,内積の行列式で定義される行列式をグラムの行列式(グラミアン)といいます.平行体の面積・体積はグラミアンの平方根に等しくなるというわけです.
また,座標を使って表せば,n+1個の点の座標に(1,1,1,・・・,1)を加えて作られる(n+1)次の行列式の絶対値になります.
|S|=|1 x1 y1| |V|=|1 x1 y1 z1|
|1 x2 y2| |1 x2 y2 z2|
|1 x3 y3| |1 x3 y3 z3|
|1 x4 y4 z4|
原点が含まれるときは,
|S|=|x1 y1| |V|=|x1 y1 z1|
|x2 y2| |x2 y2 z2|
|x3 y3 z3|
のように展開されます.
なお,これらはそれぞれn次元単体の体積のn!倍になりますから,三角形面積,四面体の体積は,
S’=S/2
V’=V/6
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