■反例集(その17)

 空間分割のひとつの例として石鹸の泡によるものがあり,昔から物理学者の研究の対象になってきた.石鹸の泡による空間分割に結びつく物理的作用はいうまでもなく表面積を極小化しようとする力(表面張力)であるから,ここでは石鹸膜を作る素材の総量を一定なものと仮定してみよう.最小の素材の下で得られるべき利得を最大にすることは商業上重要というだけでなく,物理学分野でも合目的的な構築原理である.

 等周定数(S^3/V^2)を用いて体積1のときの表面積を求めると,菱形12面体型分割では

  3√(S^3/V^2)=3√108√2=5.345・・・

切頂8面体型分割では

  3√(S^3/V^2)=3/43√4(1+√12)=5.314・・・

と後者の方が約0.5%少なくなる.

 このようにして,1887年,英国の物理学者,ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は石鹸の泡による空間分割の力学的研究から切頂八面体の集合(ケルビンの14面体)によって空間を満たすことができ,そのときの界面積は菱形十二面体で満たしたときより小さいことを発見した.

 今回のコラムでは,ケルビンの14面体が

(1)面数最大の空間充填多面体であることに対する反例

(2)唯一の空間充填14面体であることに対する反例

(3)最小表面積の空間充填多面体であることに対する反例

を示す.

 この最後の問題に関するケルビン予想は長年にわたる未解決問題であったが,1994年,ようやく反例が示された.ウィアとフェランは同じ体積をもつが複数の合同でない胞体を用いてかなり複雑な胞体分割を構成したのである.

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