■分割数の漸近挙動(その122)

【1】オイラーの五角数定理

 

 ある恒等式が分割の立場から何を意味するかという逆問題を考えてみましょう.

 

  1/(1-x)=1+x+x^2+x^3+x^4+・・・

      =(1+x)(1+x^2)(1+x^4)(1+x^8)・・・

において,1+x+x^2+x^3+x^4+・・・の指数は整数そのものの母関数と考えられます.一方,(1+x)(1+x^2)(1+x^4)(1+x^8)・・・は整数を繰り返しなしで2のベキに分解しています.したがって,各整数は2のベキの総和として一意に表せることを意味しているのです.

  n=k1+2k2+2^2k3+・・・

 

 オイラーが発見した定理をもう一つ紹介しておきましょう.分割数p(n)の母関数の逆数

  Π(1-x^n)=(1-x)(1-x^2)(1-x^3)・・・

を考えます.これを展開すると,級数中の係数がすべて0か±1の級数

  Π(1-x^n)=1-x-x^2+x^5+x^7-x^12-x^15+x^22+x^26-x^35-x^40+x^51+・・・

       =Σ(x^(6m^2-m)-x^(6m^2+5m+1))

が得られますが,これが何を意味しているかを発見できるでしょうか?

 

 一見したところ,何を意味しているのかすら明らかではないのですが,この級数は,mが負になる項も含んだ

  Π(1-x^n)=Σ(-1)^mx^(m(3m-1)/2))

の形にまとめられ,ここで指数の引数がm(3m−1)/2,すなわち,1,5,12,22,35,51,・・・という数列がピタゴラスの五角数であることから,五角数定理と呼ばれています.

 

 この恒等式は,級数中のx^nの係数がすべて0か±1なのですが,組合せ論の解釈から,偶数個の異なる整数への分割数と奇数個の異なる整数への分割数の差

  peven(n)-podd(n)=(-1)^m    n=m(3m+1)/2

  peven(n)-podd(n)=0      その他の場合 を表すものと考えられます.

 

 たとえば,n=8の場合,偶数個の異なる整数への分割は7+1=6+2=5+3の3通り,奇数個の異なる整数への分割は8=5+2+1=4+3+1の3通りですから,その差は0となります.

 

 個数の差があるのはn=m(3m+1)/2またはn=m(3m−1)/2,すなわち,

  n=1,2,5,7,12,15,22,26,・・・

の場合で,このn=m(3m±1)/2を5角数といいます.nが5角数の場合に限ってpeven(n)とpodd(n)が異なるのですが,五角数は分割問題でも役立つというわけです.

 

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 五角数定理はオイラーが分割関数p(n)の研究中に発見した関数等式です(1750年).「オイラーの五角数定理はヤコビの三重積公式を使うとあっさり証明できる」そうですが,現在,五角数定理にはヤコビの三重積公式による証明やフランクリンによる組合せ的証明があります.

 

五角数定理の完全な証明は,ヤコビのテータ関数や保型形式の理論の中に求められなければなりません.しかし,ヤコビを待つまでもなく,オイラーは五角数定理を証明しました.オイラーはこの定理の証明にほぼ10年を要した(発見は1741年,証明は1750年)のですが,その間,たとえ完全な証明は与えられなくとも正しいことは間違いないことを確信していて,結果の正しさについて,微塵の疑いも抱いていなかったようです.

 

 オイラー自身による証明はヴェイユの「数論」に紹介されています.梅田亨先生の解説によると,今日的な眼からすれば,オイラーの証明には無限次行列に対する跡公式と呼ばれるアイディアが使われているというのですが,跡公式とは,行列Aにおいて対角和=固有値の和,すなわち

  trA=Σλ

の左辺が解析的,右辺が幾何学的に得られたものであるように,ある作用素の跡を2通りの方法で計算することにより得られる等式であって,作用素とはいわば無限次行列のことと考えておくとよいと思われます.

 

 2通りに計算するということを喩えていうならば,家計簿つけのシーンにおいて,まず行ごとの合計を求めそれを総計する,次に列ごとの合計を求めそれを総計する,そして計算が正しければその2つの計算結果は一致するはずというわけです.

 

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 なお,オイラーの五角数定理

  Π(1-x^n)=Σ(-1)^mx^(m(3m-1)/2))

により

  x^(1/24)/f(x)=Σ(-1)^nx^((6n-1)^2/24)

したがって,左辺はデデキントのイータ関数の定義そのもの,また,右辺は確かにテータ級数(ベキが平方数であるような交代級数:例えば,1-x+x^4-x^9+x16-・・・)であることがわかります.

 

 オイラーの五角数定理は,左辺がイータ関数,右辺がテータ関数と呼ばれる保型形式の原型を与えていたので,19世紀には,

  デデキントのイータ関数=ヤコビのテータ関数

すなわち,保型形式の間の等式と捉えられるようになりました.

 

 分割関数の母関数は本質的にモジュラー形式を与えるというわけで,さらに,1987年,ウィッテンにより,素粒子の超弦理論はアデール理論として捉えられたことにより,最近では素粒子の超弦理論との関連も研究されています.

 

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