■分割数の漸近挙動(その32)
【1】制限のある分割
制限のない分割に対する母関数については,前回述べましたが,たとえば,最大の整数がmax,最小の整数がminである場合のnの分割に対する母関数は,
f(x)=1/{(1-x^min)(1-x^(min+1))・・・(1-x^(max-1))(1-x^max)}
と書くことができます.
同様に,6以上の偶数に分割する場合の母関数は
f(x)=1/{(1-x^6)(1-x^8)(1-x^10)・・・}
となるのですが,次に,nをすべて異なる数に分割する仕方について考えましょう.
この場合の母関数は,各整数を高々1回,繰り返すことなく取ることになるますから,制限のない場合の母関数
f(x)=(1+x+x^2+・・・)(1+x^2+x^4+・・・)(1+x^3+x^6+・・・)・・・
の因数を1以外に1つの項だけもつようにすればよい,したがって,
f(x)=(1+x)(1+x^2)(1+x^3)・・・
となることがわかります.
また,この母関数は
(1+x)(1+x^2)(1+x^3)・・・
=(1-x^2)/(1-x)・(1-x^4)/(1-x^2)・(1-x^6)/(1-x^3)・・・
=1/(1-x)(1-x^3)(1-x^5)・・・
と書き換えることができます.
これは奇数の整数への分割に対応する母関数であることがわかります.すなわち,
q(n):nの奇数のみを用いた分割の総数
r(n):nの互いに異なる数を用いた分割の総数
とすると
Σq(n)x^n=1/(1-x)(1-x^3)(1-x^5)・・・
Σr(n)x^n=(1+x)(1+x^2)(1+x^3)・・・
であり,両者の母関数は一致します.
こうして,異なる数への分割と奇数への分割が同数あるという注目すべき結果を得ることができたのですが,例えば,5を異なる数に分割するのは5,4+1,3+2の3通り,奇数に分割するのは5,3+1+1,1+1+1+1+1の3通りというわけです.
もし,物理状態がn個の基本粒子の分割に関係しているとすると,相異なる分割と奇数の分割は区別できないことがわかったのですが,実際,整数の分割問題は,現在では,統計力学(Maxwell-Boltzmann統計,Bose-Einstein統計,Fermi-Dirac統計)など様々な分野で実際的な問題を解決するのに用いられています.
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[補]統計力学
n個の箱にr個の玉を入れる問題を考えます.箱を空間の小領域,玉を気体の分子と見立てて,ボルツマンは統計力学(Maxwell-Boltzmann統計)を構成しました.MB統計では1つの玉の入れ方がn通りで,玉がr個ですから全部でn^r通りの入れ方があると考えます.しかし,このように考えると,黒体輻射の実験がどうしてもうまく説明できませんでした.
そこで,玉は区別がつかないと仮定すると,n個の箱に区別できないr個の玉を入れる入れ方は重複組合せnHr通り=n+r-1Cr通りあることになり,新たな統計力学が構成されます.この統計力学はBose-Einstein統計と呼ばれ,光子や中性子がうまく当てはまります.BE統計にしたがう素粒子はボゾン(boson)と呼ばれます.
さらに,1つの箱には玉は1つしか入らないとするパウリの排他則を仮定すると重複のない組合せnCr通りとなり,Fermi-Diracの統計が得られます.FD統計にしたがう素粒子に電子や陽子があり,それらはフェルミオン(fermion)と総称されます.
別の言い方をすると,宇宙を作っている粒子には2種類あり,物質の素になる粒子がフェルミオン(電子やクォークなど),力の素になる粒子がボゾン(光子など)なのですが,宇宙はひもから構成されているというのが「ひも理論」であり,フェルミオンのひもとボゾンのひもの2種類からなるというわけです.
ひも理論の場合,フェルミオンは10次元,ボゾンは26次元というとんでもない値をとるのですが,これについてはコラム「ひもの棲む世界」で説明したとおりです.
[補]同じ成分が高々d回しか現れない整数nの分割の個数の母関数
Σs(n)x^n=Π(1+x^n+x^2+・・・+x^dn)=Π(1-x^(d+1)n)/(1-x^n)
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