■分割数の漸近挙動(その8)

 「分割数」とは与えられた整数にどれだけ多くの分割があるのか(4=1+1+1+1,4=3+1)という整数の分割理論のことです.整数の分割では,3=2+1と3=1+2のように足し算の順序が違うものは同じと見なすことにします.たとえば,4を分割するには非増加数列で構成した5通りの方法,4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1がありますから,p(4)=5.同様にして,5=4+1=3+2=3+1+1=2+2+1=2+1+1+1=1+1+1+1+1よりp(5)=7となります.

  p(0)=1,p(1)=1,p(2)=2,p(3)=3,p(4)=5,p(5)=7,p(6)=11,

  p(7)=15,p(8)=22,p(9)=30,p(10)=41,p(11)=56,p(12)=77,・・・

ここで,p(n)はオイラーの分割関数とも呼ばれますが,定義が簡単そうにみえるにも関わらず,易しい式で表すことはできません.

 p(n)を評価する問題は数論において研究されていて,1918年,ハーディーとラマヌジャンによって,円周法による漸近近似式:

  p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))

が与えられています.

  q(n)=1/4n√(3)exp(π√(2n/3))

とおいて最も近い整数を求めてみると,

  q(1)=2,q(2)=3,q(3)=4,q(4)=6,q(5)=9,q(6)=13,

  q(7)=18,q(8)=26,q(9)=35,q(10)=48,q(11)=65,q(12)=87,・・・

となってそれほどよい評価式には思えませんが,漸近近似式はnがどんどん大きくなるとき0に近づくような誤差項を含んだ公式であって,p(n)は整数なので,この公式を使えばp(n)の値を正確に計算できるようになります.

 その後,分割関数はラーデマッハーによって修正され,完全な明示公式

  p(n)=1/π√(2)Σk^(1/2)Ak(n)d/dn{sinh(πλn√(2/3))/λn}

  λn=√(n-1/24),Ak(n)には1の24乗根が関係する

が与えられました(1937年).

 明示公式はいわば「等式の世界」のものですが,実は円周法に基づく漸近公式

  p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))

の結果を正確に証明するだけでも,長くてこみ入った理論が必要になります.すなわち,「不等式の世界」→「漸近挙動の世界」を扱いますが,20世紀に誕生した力学では,nが大きくなるときどのような振る舞いを見せるか,どのような統計法則が現れるかが重要な研究対象になっていて,整数の分割問題は,現在では,統計力学(Maxwell-Boltzmann統計,Bose-Einstein統計,Fermi-Dirac統計)など様々な分野で実際的な問題を解決するのに用いられています.

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