■空間充填多面体(その7)

 平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかない.

 このうち6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致している.また,切頂8面体(f=14)の辺を点に縮めることによって,長菱形12面体(f=12)→菱形12面体(f=12)→6角柱(f=8)→立方体(f=6)ができると考えることができる.

 これら5種類の図形(平行多面体)は3次元格子の幾何学的分類であり,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる所以である.

===================================

【1】ボロノイ細胞

 まず,簡単な縄張りのモデルを考えてみよう.草原のいくつかの巣穴にネズミが一匹ずつ棲んでいるとする.個々の縄張りが単独で存在するとき,縄張りはほぼ円であると考えることができるが,個体密度が次第に高くなってくると,縄張り所有者は互いに侵入者を追い払おうとするから,縄張り間に境界ができる.二匹のネズミの力に差がないとき,境界線は隣り合った2つの巣穴を結ぶ線分の垂直二等分線になる.そして,個体密度が十分高くなると,結局,棲息地はいくつかの凸多角形で分割されることになる.

 このように,はじめに点の分布(母点)があって,隣り合った2点を結ぶ線分の垂直二等分線を次々に引いていくことによりできる多角形パターンは,ディリクレ領域またはボロノイ領域と呼ばれる.この概念は,はじめディリクレによって2次元で提出され(1850年),その後,ボロノイによって3次元に拡張された(1908年).研究分野によりいろいろな呼び名が使われていて,たとえば,地理学分野ではティーセン多角形と呼ばれているし,物性物理学分野では,ウィグナー・ザイツセルという呼び名も用いられている.細胞(セル)の図と非常に似ているためであろう.

 この多角形モデルは領域の中心を占める対象が形成する勢力圏をモデル化したものであり,空間の次元が3,4,・・・にも拡張することができ,3次元では多面体,4次元では多胞体によって空間分割されることになる.

 また,勢力に差があれば垂直二等分線ではなく,強いほうにふくらんだ境界曲線ができるし,領域の中心を占める対象が母点ではなく,線であったり面であったりすると,それぞれの条件に対応したデフォルメされたボロノイ図を考えることができる.

===================================