■空間充填多面体(その6)

【2】平行多面体による周期的空間充填

 平行多面体による3次元空間の充填を考えると,1種類による周期的充填図形すなわち平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体として,立方体,正六角柱,菱形十二面体,長菱形十二面体,切頂八面体があります.以上の5種類を併せてフェドロフ(ロシアの結晶学者)の平行多面体といいます.6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致しています.

 平行多面体による空間充填は結晶構造と深く関係していて,3次元格子には1848年にブラーベが発見した14種類あり,そして,これから決まる本質的なディリクレ領域(ボロノイ領域)は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(正6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体),切頂8面体−−しかないというわけです.

 これら5種類の図形は5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないのですが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる所以です.なお,2次元格子は5種類あり,それから決まるディリクレ領域も5種類あります.

[補]平行多面体のうち正多面体と同じ対称性をもつ立体は,プラトン立体では立方体,アルキメデス立体では切頂8面体,大菱形立方8面体,大菱形12・20面体,アルキメデス双対では菱形12面体,菱形30面体があります.また,これらの平行多面体から得られるねじれ立体には,正方形からは正4面体,切頂8面体からは正20面体,大菱形立方8面体からはねじれ立方体,大菱形12・20面体からはねじれ12面体があります.

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【3】黄金菱形多面体による非周期的充填

 3次元空間の周期的充填に対して,非周期的充填には5種類の黄金平行多面体によるものが知られています.

 ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,対角線の比が白銀比になっている菱形を12個組み合わせてできる菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.

 黄金菱形平行6面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.

 これらはコクセターにより,A6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられていて,それぞれ3次元から6次元までの立方体の投影の外殻になっています.すなわち,黄金平行多面体は5種類あり,黄金菱形をある方向に平行移動させたものがA6,O6であり,それをさらに平行移動させるとB12が,続いてF20が,最後にK30が生まれます.

 したがって,A6とO6は3次元の,B12は4次元の,F20は5次元の,K30は6次元の立方体とそれぞれ同等になります.また,B12の中には2つずつのA6とO6が,F20の中にはひとつのB12と3つずつのA6とO6が(いいかえればF20の中には5つずつのA6とO6が),K30の中にはひとつのF20と5つずつのA6とO6が(いいかえればK30の中には10個ずつのA6とO6が)それぞれ入っていることになります.

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 K30は10個ずつのA6とO6でできるのですが,ところで,20個のA6でできる多面体に「花形十二面体」があります.中川宏さんに木工模型を作っていただいたのですが,桔梗の花に似た凹60面体であって,中川さんのお話では山頂を結ぶと正12面体,峠を結ぶと20・12面体,谷底を結ぶと正20面体になっているとのことです.

 すなわち,この多面体は5回対称性を有しているのですが,花弁の中心を通る軸が5回対称軸,尖った頂点を通る軸は3回対称軸,花弁の縁の窪みを通る軸が2回対称軸になっているそうです.「花形十二面体」は小川泰先生がペンローズ格子(3次元版)について研究中に見つけられて,命名された多面体とのことでまさしく「黄金の華」です.

[補]3次元の複合正多面体には5種類あります.2個の正四面体が集まるもの(ケプラーの八角星)を除く,5個の正四面体,10個の正四面体,5個の立方体,5個の正八面体が集まるものは正20面体と同じ回転対称性をもっています.5個の立方体よりなる複合正多面体に数種類の多面体を貼り合わせても「花形十二面体」ができます

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