■空間充填多面体(その5)

【2】ケルビン問題(表面積は小さく容積は大きく)

 菱形十二面体としばしば対比されるのが切頂八面体です.どちらも単独で空間充填可能な立体図形なのですが,菱形十二面体が面心立方格子のボロノイ図であるのに対して,切頂八面体は体心立方格子のボロノイ図となっています.

 ここでは,空間を体積が等しい凸多面体で,平均表面積ができるだけ小さくなるように分割せよという問題を考えてみることにしますが,ケルビンはプラトーの法則から6枚の正方形と8枚の正六角形からなる14面体(切頂八面体)を導き出しました.

 そしてこの問題はかなり長い間,菱形12面体による空間分割が解だと考えられていたのですが,予想に反して,体積1のときの表面積を求めると,菱形12面体型分割では

  3√108√2=5.345・・・

切頂8面体型分割では

  3/43√4(1+√12)=5.314・・・

と後者の方が約0.5%少なくなります.

 菱形12面体の体積を求めるのはそれほど容易ではないので,計算方法を示しますと,切稜立方体の表面積Sと体積Vは,dをパラメータとして

  S=(6−9/√2)d^2+6√2d+6√2

  V=−3/4d^3+3/2d^2+3d+2

で表されます.菱形十二面体ではd=0ですから

  S=6√2

  V=2

 一方,切頂八面体では

  S=(12−8√3)d^2+(24√3−48)d+48−12√3

  V=8/3d^3−12d^2+12d+4

においてd=3/2とおいて求められます.したがって,

  S=3+6√3

  V=4

となります.

 体積1のときの表面積は

  3√(S^3/V^2)

で求められますから,菱形十二面体では

  3√(S^3/V^2)=3√(108√2)=5.345・・・

切頂八面体では

  3√(S^3/V^2)=3/4・3√4・(1+√12)=5.314・・・

 このようにして,1887年,英国の物理学者,ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は切頂八面体の集合によって空間を満たすことができ,そのときの界面積は菱形十二面体で満たしたときより小さいことを発見しました.すなわち,切頂八面体は表面張力を最小とする空間分割構造であると考えることができるのです.

[補]空間充填可能な凸n面体すべてを決定することは現在でも未解決になっている.ちなみに現在は4≦n≦38であるすべてのnに対し,空間充填可能な凸n面体が存在することが判明している.n=38に対しては,1981年にエンゲルが2つの異なる38面体の存在を示した.n≧39に対して空間充填凸n面体が存在するか否かはいまだ不明である.

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