■空間充填多面体(その3)

【1】安定な平面分割・空間分割

 (問)正多角形は無限に多く存在しますが,それでは,互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?

 (答)平面充填形は正三角形,正方形,正六角形の3種類に限ることは,昔からよく知られていますが,このうち正方形のは碁盤,正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう.

 しかし,正三角形と正方形による平面分割は頂点だけで接している多角形があるので,ボロノイ分割に対して安定とはいえません.点のわずかな動きによって,ボロノイ分割が激変してしまうのです.したがって,ボロノイ分割の意味で安定なものは六角形による平面充填だけということになります.

 それでは,3次元ではどうでしょうか? 正多面体による空間充填を考えると,立方体は明らかに空間を埋めつくすのですが,立方体を除く正多面体はどれも空間を充填しません.5種類ある正多面体(プラトン立体)の中では立方体だけ,16種類ある準正多面体(アルキメデス立体:2種類以上の正多角形から構成されている立体)の中では切頂八面体だけが空間を単独で埋めつくすことができます.

 切頂八面体(truncated octahedron)は名前のとおり正八面体の各辺を三等分して頂点を切り取った後に残る多面体です.実は,準正多面体のなかで空間充填が可能なのは切頂八面体−−正6角形8枚と正方形6枚の2種類で作る14面体−−しかありません.切頂八面体は対心立方格子のボロノイ多面体です.

 また,それ以外の単独空間充填形となる多面体としては,菱形十二面体(rhombic dodecahedoron )があげられます.菱形十二面体は,面が正多角形ではないので準正多面体ではありませんが,対心立方格子のボロノイ多面体になっています.

 立方体,菱形十二面体,切頂八面体のうち,1点に4個の多面体が会してボロノイ分割に対して安定なものは切頂八面体だけなのですが,このことは14面体が最も多いとする実験的研究から得られた値を裏付ける1つの根拠を与えてくれます.

 なお,それほど単純でない単独空間充填多面体の例としては,切頂4面体の正三角形部分に正4面体を4分割した扁平な4面体をくっつけたものが知られていますし,また,対称性をもたない凸の空間充填多面体としては,38面体の例も知られているようです.

もし2種類以上を使ってよければ,正四面体と正八面体の二面角が互いに補角ですから,両者を組み合わせて空間充填が可能になります.一種類の合同な正多面体による空間充填では立方体だけが空間充填形なのですが,正多面体同士の組合せでは,正四面体と正八面体を組み合わせたものだけが空間を充填します.

 一方,2種類以上の多面体による空間充填については,すでに述べた切頂4面体と正4面体(1:1),切頂立方体と正8面体(1:1),切頂8面体と切頂立方8面体と立方体(1:1:3)の組合せなど,非常に多くの例があります.

 

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【2】ケルビンの14面体

 (問)ビールの泡のひとつひとつが同じ体積だと仮定して,表面張力で泡と泡の境界の総面積が最小になるとき,泡はどんな形か?

 1887年,英国の物理学者,ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は14面体の集合によって空間を満たすことができ,そのときの界面積は菱形十二面体で満たしたときより小さいことを発見しました.すなわち,14面体は表面張力を最小とする空間分割構造であると考えることができます.

 この14面体(α-14面体)は,3対の合同な四角形の面と4対の合同な6角形の面とで囲まれています.最も簡単な場合は,6個の正方形と8個の正六角形とからなり,すべての辺の長さが等しいもの,すなわち,切頂八面体です.切頂八面体は16種ある準正多面体(アルキメデス体)のひとつです.

 切頂八面体とα-14面体の関係は,立方体と平行六面体の関係に相当します.たとえば,諏訪紀夫「病理形態学原論」岩波書店には,α-14面体の代表例として8個の合同な六角形,4個の合同な平行四辺形,2個の合同な矩形の面をもち,面はすべて平面となる立体が収載されています.

 このようなα-14面体は無限にありますが,とくに,すべての辺の長さの等しいものは,ケルビンの14面体と呼ばれています.ケルビンの14面体は切頂八面体をやや引き伸ばした形であって,切頂八面体のような等方14面体の条件は満足されませんが,単一の多面体による空間分割は可能です.

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