■ペル方程式(その80)
[1]基本単数
まず最初に,実2次体Q(√m)の基本単数について説明することから始めたいと思います.Q(√m)を2次体とするとき,a+b√mの共役をa−b√mで表します(m<0ならば通常の複素共役である).このとき,その標準底は
ω=√m m=2,3(mod4)
ω=(1+√m)/2 m=1(mod4)
で与えられます.
そして,単位元「1」の約数を単数といいます.m>0のとき,単数群は
{±1}×C(Cは乗法的巡回群)
によって与えられます.また,εをε>1なる最小の単数とするとき,
C={±ε^n}
と表すことができ,εをQ(√m)の基本単数といいます.
実2次体の基本単数は一意に定まります.Q(√m)を実2次体とすると,
[a]m=2,3(mod4)のとき
基本単数を
ε=a+b√m
とすると
ε~=a−b√m
εが単数←→εε~=a^2−mb^2=±1
また,
ε^n=an+bn√m
と書くと
ε^(n+1)=ε・ε^n=(a+b√m)(an+bn√m)
=aan+bbnm+(abn+ban)√m
これより
an+1=aan+bbnm
bn+1=abn+ban
このことから0<a1<a2<・・・,0<b1<b2<・・・となるのですが,より,a,bはペル方程式:
a^2−mb^2=±1
の解の中で(a,b)が最小なものとして与えられます.ペル方程式の自明な解(a=±1,b=0)には単数±1が,自明でない解のなかで絶対値|a|または|b|が最小なものには基本単数が対応するというわけです.
Q(√2),Q(√3),Q(√6),Q(√7)の基本単数を求めると,それぞれ,
x^2−2y^2=±1,複号は−1で(1,1)が最小→ε=1+√2
x^2−3y^2=±1,複号は+1で(2,1)が最小→ε=2+√3
x^2−6y^2=±1,複号は+1で(5,2)が最小→ε=5+2√6
x^2−7y^2=±1,複号は+1で(8,3)が最小→ε=8+3√7
[b]m=1(mod4)のとき
基本単数を
ε=(a+b√m)/2 a=b(mod2)
と書けば
a^2−mb^2=±4
となること以外は前と同様です.
Q(√5),Q(√13)の基本単数を求めると,それぞれ,
x^2−5y^2=±4,複号は−4で(1,1)が最小→ε=(1+√5)/2
x^2−13y^2=±4,複号は−4で(3,1)が最小→ε=(3+√13)/2
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Q(√2)ではε=1+√2が基本単数ですが,その他の解は
(1+√2)^n=an+bn√2
とおいて
n=1:1^2−2・1^2=−1
n=2:3^2−2・2^2=+1
n=3:7^2−2・5^2=−1
n=4:17^2−2・12^2=+1
n=5:41^2−2・29^2=−1
n=6:99^2−2・70^2=+1
n=7:239^2−2・169^2=−1
n=8:577^2−2・408^2=+1
n=9:1393^2−2・985^2=−1
n=10:3363^2−2・2378^2=+1
一般に,
an^2−2bn^2=(−1)^n
となります.
Q(√3)ではε=2+√3が基本単数で,
n=1:2^2−3・1^2=+1
n=2:7^2−3・4^2=+1
n=3:26^2−3・15^2=+1
n=4:97^2−3・56^2=+1
n=5:362^2−3・209^2=+1
n=6:1351^2−3・780^2=+1
n=7:5042^2−3・2911^2=+1
n=8:18817^2−3・10864^2=+1
n=9:70226^2−3・40545^2=+1
n=10:262087^2−3・151316^2=+1
一般に,an^2−2bn^2=1でan^2−2bn^2=−1となる解は存在しません.
この2つの例からわかるように,基本単数εのノルムが−1のときには
x^2−my^2=+1
と
x^2−my^2=−1
はどちらも無数の解をもちますが,εのノルムが+1のときには解はすべて前者の解であって,後者は解をもちません.
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以下,実2次体Q(√m)の基本単数εを掲げますが
m ペル方程式の最小解 ε ノルム
2 1^2−2・1^2=−1 1+√2 −1
3 2^2−3・1^2=+1 2+√3 +1
5 1^2−5・1^2=−4 (1+√5)/2 −1
6 5^2−6・2^2=+1 5+2√6 +1
7 8^2−7・3^2=+1 8+3√7 +1
10 3^2−10・1^2=−1 3+√10 −1
11 10^2−11・3^2=+1 10+3√11 +1
13 3^2−13・1^2=−4 (3+√13)/2 −1
14 15^2−15・4^2=+1 15+4√14 +1
15 4^2−15・1^2=+1 4+√15 +1
17 8^2−17・2^2=−4 4+√17 −1
19 170^2−19・39^2=+1 170+39√19 +1
21 5^2−21・1^2=+4 (5+√17)/2 +1
22 197^2−22・42^2=+1 197+42√22 +1
23 24^2−23・5^2=+1 24+5√23 +1
26 5^2−26・1^2=−1 5+√26 −1
29 5^2−29・1^2=−4 (5+√29)/2 −1
30 11^2−30・2^2=+1 11+2√30 +1
31 1520^2−31・273^2=+1 1520+273√31 +1
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