■ケプラーの球体充填問題(その13)
1つの10円玉を机の上において,それと触れ合うようにかつお互いに重ならないようにして,6個の10円玉を置くことができます.1次元の球は区間であり,接触数は1次元のとき2個,2次元のとき6個であることは自明であって,幼稚園児でも解くことができそうです.
平面上で与えられるたいていの問題は,3次元あるいは高次元の空間で考察することができます.一般に,n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τn は接吻数(kissing number)あるいは接触数(contact number)と呼ばれていて,最密充填構造「同じ半径の球をできるだけ稠密詰めるにはどうしたらよいか」という空間の球による充填問題と深い関連があります.
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【1】kissing numberの問題
10円玉の例からわかるようにτ2=6ですが,n≧3のとき,τn はどうなるでしょうか? 3次元の球の最大接触数τ3については,1694年にニュートンとグレゴリーの間で議論され,ニュートンは12を,グレゴリーは13を主張したといわれています.結局,ニュートンは12個が最大であるという証明ができず,グレゴリーも13個並べたわけではないので,「ニュートンの13球問題」と呼ばれるこの論争は引き和けに終わりました.
1874年,ホッペが12個が最大であることという証明を試みましたが,不備があり,ようやく完全な証明がなされたのは1953年,ファン・デル・ヴェルデンとシュッテによってです.つまり,3次元空間内で1つの球には同時に12個の球しか接することができません.3次元のときは12個という解が得られるまで非常に長い年月がかかったことになります.
4次元の場合はどうなるでしょうか? 24個の面心立方格子状配置の接触点
1/√2(±1,±1,0,0)
1/√2(±1,0,±1,0)
1/√2(±1,0,0,±1)
1/√2(0,±1,±1,0)
1/√2(0,±1,0,±1)
1/√2(0,0,±1,±1)
で重ならないように置けるので,τ4≧24は明らかです.また,スローンとオドリツコは4次元における上限を25に,ハーディンがそれを24にまで下げました(τ4=24).
n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τnの正確な値を決定する問題は大変難しく,5次元以上の高次元については,高度に対称的な格子状配置になっている8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決であり,現在,正確な値が知られているのは,τ1=2,τ2=6,τ3=12,τ4=24,τ8=240,τ24=196560の5つだけなのです.
専門的になりますが,τ8の240個の点はE8型の単純リー代数の240個のルート格子で実現されます.さらに,この詰め込みの断面(部分格子)が6次元と7次元のもっとも効率のいい格子状詰め込みを与えてくれます.
また,1965年,リーチは群論と深く結びついた今日リーチ格子として知られるようになったものに基づいて,24次元空間の格子状詰め込みを構成しました.この詰め込みにおいては,なんと1つの超球に196560個もの超球が接触しています.τ24の196560個の点はリーチ格子の原点から一番近い点の集合として得られることが知られています.
8次元と24次元は,接吻数が計算できる特殊な次元なのであり,都合のいい格子(8次元の場合,格子にはE8,24次元の場合,リーチ格子という名前が付いている)がひとつに決まるので,格子上に球を配置することによってすぐに接吻数を数えることができるというわけです.
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こうして,n≦24のときのすでに知られている上界・下界がオドリツコ,スローンによって与えられています.τnの知られている上限と下限の間の差はまだ非常に大きいといえます.
n τn n τn
1 2 13 1130〜2233
2 6 14 1582〜3492
3 12 15 2564〜5431
4 24 16 4320〜8313
5 40〜46 17 5346〜12215
6 72〜82 18 7398〜17877
7 126〜140 19 10668〜25901
8 240 20 17400〜37974
9 306〜380 21 27720〜56852
10 500〜595 22 49896〜86537
11 582〜915 23 93150〜128096
12 840〜1416 24 196560
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