■ケプラーの球体充填問題(その11)

【3】kissing numberの下界

 n次元球のkissing numberの上界は立体角による評価,すなわち,正四面体配置(相互に接するよう球を配置)の問題でしたが,それに対して,下界は極大格子状配置による評価,すなわち,

  A1,A2,A3,D4,D5,E6,E7,E8

の問題となります.

 単独で空間を充填する平面充填正多角形は3種類(正三角形・正方形・正六角形),空間充填正多面体は1種類(立方体)です.それに対して,4次元空間を1種類の正多胞体で埋めつくす図形は,正8胞体,正16胞体,正24胞体の3種類であり,4次元の最密正則胞体充填構造は,正24胞体で埋めつくされているときであることが知られています.

 正24胞体の頂点は正8胞体と正16胞体の頂点をなすことより,正24胞体は3次元の菱形12面体A3に対応するものであって,(3,4,3,3)は4次元版の菱形12面体による空間充填形に相当します.すなわち,それは4次元の面心立方格子といってよいものであって,4次元の最密正則胞体充填構造D4は正24胞体で埋めつくされているときであることが知られているというわけです.

 なお,n次元正単体とn次元立方体の対称群は,それぞれAn-1,Bn(Cn)で表されるのですが,24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているらしく,この点もまた注目すべきものです.

 そこで「単位格子群の2つの格子点の間の最小距離dminを最大にする格子群(極大格子群)を求めよ」というミニマックス問題が設定されます.すなわち,正多角形,正多面体に限らない最密規則的充填構造は何かという問題です.

 2次元では,与えられた最小距離をもつすべての格子中で,格子点密度のもっとも高いものは,正三角形格子(A2)ということになります.

 3次元では,すべての辺の長さが等しい平行六面体格子(菱形体格子)をつくってみると,辺が互いの60°の角度をなすようにしたとき,平行六面体の体積は最小値となります.これが面心立方格子状配置であって,その対称性はC3(立方体)ではなく,A3で与えられます.

 もっとも稠密な格子状球配置を求める問題はより高次元の空間においても考えることができるのですが,高次元空間においては,平面における正三角形格子や3次元空間における面心立方格子はもはや最密球配置を与えてはくれません.4次元のD4格子は4次元の体心立方格子であり,正24胞体による空間充填形に相当します.すなわち,4次元,5次元においては面心立方格子の類似品D4,D5となるのですが,面心立方格子状配置

  n=3:(±1,±1,0)

  n=4:(±1,±1,0,0)

  n=5:(±1,±1,0,0,0)   (±1の個数は2つ)

では2n(n−1)個の球と接することができます.

 n=6,7,8では面心立方格子状配置の接触点以外にも隙間ができるのでそのようなことも成立しなくなり,隙間の分が加わって,それぞれ

  60+12=72

  84+42=126

  112+128=240

個の同じ大きさの球が詰め込み可能になります.(E6,E7,E8格子は例外型リー環に属し,それぞれ接触数72,126,240を与える.)

 この隙間は,9個の整数に対して法3で合同となるので,

  x1+x2+x3=x4+x5+x6=x7+x8+x9=0  (n=6)

  x1+x2+x3+x4+x5+x6=x7+x8+x9=0  (n=7)

  x1+x2+x3+x4+x5+x6+x7+x8+x9=0  (n=8)

であって,

  12×3=42,42×3=128

という関係にあり,E8では9個の球によって完全に充填した構造となっています.

        第1層    第2層    第3層

  E6 格子   72    270    720

  E7 格子 126    756   2072

  E8 格子 240   2160   6720

 これは次元の上昇とともに,超球の間の隙間が大きくなっていくからなのですが,8次元になると面心立方格子に十分な隙間ができるので,112個の面心立方格子状配置の接触点

1/√2(0,・・・,±1,0,・・・,±1,0・・・)   (±1の個数は2つ)

と128個の隙間の点

1/√8(±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1)   (+の個数は偶数)

に同じ大きさの球が詰め込み可能になります.

 この詰め込みの断面(部分格子)が6次元と7次元のもっとも効率のいい格子状詰め込みE6,E7を与えてくれるというわけです.

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