■SPLAG(その6)

 コンウェイは球充填の理論的な側面を研究した.

  [参]Conway,Sloane "Sphere packings, Lattices and Groups", Springer-Verlag=「球充填・格子・群」はこのテーマに関する標準の参考書で,SPLAGと略称される.

 とくに24次元のおける特定の格子の対称性の研究は,コンウェイに数学者としての名声を築くとともに,この著書は毎年結構な額の印税を彼にもたらした.先日,私も第3版を購読して印税に寄与した.第1版と記述の異なる箇所はあるのだろうか?

===================================

【1】最密球充填

 n=1,2,3については,非格子状配置(面心立方格子と充填密度は等しいが規則的でないもの,ダイヤモンド格子のように周期的ではあるが等方的でないもの,ペンローズ格子のように周期的でないものなど)やランダム配置を含めても最密であることが証明されている.

 また,格子Λの双対格子をΛ~,そして層状格子をΛnで表すことにすると,

  Λ1=Z=A1=A1~,Λ2=A2=A2~

  Λ3=A3=D3,Λ4=D4=D4~

  Λ5=D5,Λ6=E6

  Λ7=E7,Λ8=E8=E8~

となる.

 (証明はされていないものの)9次元以上では,10〜13次元を除き,29次元以下の最密球充填配置は層状格子Λnであることが知られている.また,30〜32次元ではQn(Quebemann格子)がΛnを上回る.

 例外となるn=10,11,13では非格子状配置であり,n=12は格子状配置K12(Coxeter-Todd格子),また,n=16,24の格子状配置は

  Λ16=BW16(Barnes-Wall格子),Λ24=(Leech格子)

と呼ばれる層状格子である.K12,Λ16,Λ24,Q32は最密球充填格子というわけである.

  K12 → Δ=π^6/19440=0.04945・・・

  Λ16 → Δ=π^8/16/8!=0.01471・・・

  Λ24 → Δ=π^12/12!=π^12/479001600=0.001930・・・

と計算されているが,充填密度を

  δ=Δ/vn

として規格化すると,

  A1  → δ=1

  A2  → δ=0.28868

  A3  → δ=0.17678

  D4  → δ=0.125

  D5  → δ=0.08839

  E6  → δ=0.07217

  E7  → δ=0.0625

  E8  → δ=0.0625

  K12 → δ=0.03704(δ=1/27)

  Λ16 → δ=0.0625(δ=1/16)

  Λ24 → δ=1

であるから,リーチ格子がいかに効率的配置であるかが理解されるだろう.

 1965年,リーチは群論と深く結びついた今日リーチ格子として知られるようになったものに基づいて,24次元空間の格子状詰め込みを構成したのであるが,この詰め込みにおいては,なんと1つの超球に196560個もの超球が接触している.そして,τ24の196560個の点はリーチ格子の原点から一番近い点の集合として得られることが知られている.

===================================

【2】球充填密度(log2Δ(n))/nの下界と上界

 コラム「無限次元空間の球充填問題」(2003年)では,n次元ユークリッド空間における球充填密度Δ(n)のn→∞における漸近挙動が,

  −1≦(log2Δ(n))/n≦−.599

であること,そして

  (log2Δ(n))/n → −1   (n→∞)

が成り立つかどうかが問題になっていることを紹介しました.

 ミンコフスキーは,数の幾何学の理論を利用して,

  Δ≧ζ(n)/2^(n-1)

を得た.ここで,n→∞とするとき,リーマンのゼータ関数

  ζ(n)=Σ1/k^n→1

であるから,

  log2Δ≧−n+1

したがって

  (log2Δ(n))/n≧−1

となる.

 一方,上界は単体的密度限界dnで粗雑ながら押さえられる.

  Δ≦dn≦1

すべてのnに対して,

  (−n≦)log2Δ≦−n/2+log2(n/2+1)

が成り立ち,n→∞のとき,

  dn 〜 (n/e)2^(-n/2)

であるから,これで,n→∞のとき,

  (log2Δ(n))/n≦−0.5

が得られる.

  (log2Δ(n))/n≦−0.599

はそれを精緻化したものである.詳細は種本に譲ることにするが,格子状,非格子状の最密充填配置における

  −1≦(log2Δ(n))/n≦−0.599

という結果は,次元がひとつ増すごとに充填密度Δ(n)がおよそ1/2〜1/1.51になるという計算が成り立つことを示している.

===================================

【3】キッシング数限界

 n次元球のkissing numberについては,一部の次元では上限と下限の間に絞られているが,すべての次元に通用する球充填の問題はまだ解決していない.

 kissing numberは最密充填構造と深い関連があるのだが,その下界はコクセターの方法によって求められる.一方,上界は単体的密度限界dnで粗雑ながら押さえられる.

 単体的密度限界とは,稜の長さが2rのn次元正則単体の頂点に半径rの球を描いたときの充填密度dn,外接球Rを描いたときの単体における球の被覆密度Dnのことであって,平面の場合は

  d2=π/√12=0.9068・・・

  D2=2π/√27=1.209・・・

空間の場合は,

  d3=√18(arccos(1/3)−π/3)=0.7797・・・

  D3=9√3/2(arccos(1/3)−π/3)=1.431・・・

となる.

 1958年,ロジャースは,四面体配置から空間充填率の上限を77.97%とはじき出した.四面体配置は,3次元で相互に接するように球を配置するときの最大数となる配置であるが,全空間を充たすことはできないので,空間充填率の上限と考えられるわけである.

 任意のn次元空間においても,単体は空間充填体でないという都合の悪い事情が現れるので,充填密度Δはdnより決して大きくはなく,被覆密度ΘはDnより小さくないので,これを使って,上側からの粗い評価をすると,

  n  τn

  1       2

  2 6

  3 12

  4 24〜26

  5 40〜48

  6 72〜85

  7 126〜146

  8 240〜244

となり,現在知られている上界よりほんの少し大きい方に偏っていることがわかる.コクセターが提起した4次元キッシング数限界は24と26の間,8次元キッシング数限界は240と244の間であった.

 24次元の球充填問題は,2004年にコーンとクマールによって完全に解決された.4次元ではスローンとオドリツコが上限を25にまで減らし,さらにハーディンがそれを24に下げた.8次元ではスローンとオドリツコが上限を240にまで下げた.

 n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τnは,4次元以上の高次元では,4次元(24個),8次元(240個),24次元(196560個)の場合を除いて未解決である.

  n  τn   n  τn

  1       2   13 1130〜2233

  2 6   14 1582〜3492

  3 12   15 2564〜5431

  4 24   16 4320〜8313

  5 40〜46   17 5346〜12215

  6 72〜82   18 7398〜17877

  7 126〜140   19 10668〜25901

  8 240   20 17400〜37974

  9 306〜380   21 27720〜56852

  10 500〜595   22 49896〜86537

11 582〜915 23 93150〜128096

12 840〜1416 24 196560

===================================