■SPLAG(その3)
コラム「無限次元空間の球充填問題」(2003年)では,n次元ユークリッド空間における球充填密度Δ(n)のn→∞における漸近挙動が,
−1≦(log2Δ(n))/n≦−.599
であること,そして
(log2Δ(n))/n → −1 (n→∞)
が成り立つかどうかが問題になっていることを紹介しました.
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【1】(log2Δ(n))/nの下界と上界
ミンコフスキーは,数の幾何学の理論を利用して,
Δ≧ζ(n)/2^(n-1)
を得た.ここで,n→∞とするとき,リーマンのゼータ関数
ζ(n)=Σ1/k^n→1
であるから,
log2Δ≧−n+1
したがって
(log2Δ(n))/n≧−1
となる.
一方,上界は単体的密度限界dnで粗雑ながら押さえられる.
Δ≦dn≦1
すべてのnに対して,
(−n≦)log2Δ≦−n/2+log2(n/2+1)
が成り立ち,n→∞のとき,
dn 〜 (n/e)2^(-n/2)
であるから,これで,n→∞のとき,
(log2Δ(n))/n≦−0.5
が得られる.
(log2Δ(n))/n≦−0.599
はそれを精緻化したものである.詳細は種本に譲ることにするが,格子状,非格子状の最密充填配置における
−1≦(log2Δ(n))/n≦−0.599
という結果は,次元がひとつ増すごとに充填密度Δ(n)がおよそ1/2〜1/1.51になるという計算が成り立つことを示している.
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【2】キッシング数限界
n次元球のkissing numberについては,一部の次元では上限と下限の間に絞られているが,すべての次元に通用する球充填の問題はまだ解決していない.
kissing numberは最密充填構造と深い関連があるのだが,その下界はコクセターの方法によって求められる.一方,上界は単体的密度限界dnで粗雑ながら押さえられる.
単体的密度限界とは,稜の長さが2rのn次元正則単体の頂点に半径rの球を描いたときの充填密度dn,外接球Rを描いたときの単体における球の被覆密度Dnのことであって,平面の場合は
d2=π/√12=0.9068・・・
D2=2π/√27=1.209・・・
空間の場合は,
d3=√18(arccos(1/3)−π/3)=0.7797・・・
D3=9√3/2(arccos(1/3)−π/3)=1.431・・・
となる.
1958年,ロジャースは,四面体配置から空間充填率の上限を77.97%とはじき出した.四面体配置は,3次元で相互に接するように球を配置するときの最大数となる配置であるが,全空間を充たすことはできないので,空間充填率の上限と考えられるわけである.
任意のn次元空間においても,単体は空間充填体でないという都合の悪い事情が現れるので,充填密度Δはdnより決して大きくはなく,被覆密度ΘはDnより小さくないので,これを使って,上側からの粗い評価をすると,
n τn
1 2
2 6
3 12
4 24〜26
5 40〜48
6 72〜85
7 126〜146
8 240〜244
となり,現在知られている上界よりほんの少し大きい方に偏っていることがわかる.コクセターが提起した4次元キッシング数限界は24と26の間,8次元キッシング数限界は240と244の間であった.
24次元の球充填問題は,2004年にコーンとクマールによって完全に解決された.4次元ではスローンとオドリツコが上限を25にまで減らし,さらにハーディンがそれを24に下げた.8次元ではスローンとオドリツコが上限を240にまで下げた.
n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τnは,4次元以上の高次元では,4次元(24個),8次元(240個),24次元(196560個)の場合を除いて未解決である.
n τn n τn
1 2 13 1130〜2233
2 6 14 1582〜3492
3 12 15 2564〜5431
4 24 16 4320〜8313
5 40〜46 17 5346〜12215
6 72〜82 18 7398〜17877
7 126〜140 19 10668〜25901
8 240 20 17400〜37974
9 306〜380 21 27720〜56852
10 500〜595 22 49896〜86537
11 582〜915 23 93150〜128096
12 840〜1416 24 196560
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