■y^2=x^3−aの整数解(その30)
【4】フェルマーの問題
『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない.』
フェルマーの問題は,n=1のときにはx+y=zという単なる足し算ですから,xとyにどんな自然数を入れても自然数zは必ず存在します.n=2の場合はピタゴラス方程式:x^2+y^2=z^2ですから,解は無限にあることがわかります.n=4の場合は,フェルマー自身が無限降下法という一種の背理法を用いて0と1の中間に整数が存在するという矛盾を導き出すことによって証明が与えられました.
指数が3以上のフェルマー方程式については,n=3の場合はオイラー(1770年),n=5の場合はディリクレとルジャンドル(1825年),n=7の場合はラメ(1839年)によって証明が与えられ,それ以上のnについては素数の場合だけを調べればよいのですが,初等的な方法では手続きが急速に複雑になって行き詰まりこれ以上進むことに限界がありました.
個々のnに対して攻略する時代はこれで終わり,あとは一般的なnに対する攻略の道筋にまったく新しい方向性と理論を見いだす必要があったのです。最大のブレークスルーは1851年,クンマーによってなされました。クンマーは円分体の整数論の研究に専念し,正則素数であるすべてのnに対してフェルマー予想が成立することを示したのです。正則素数pはBp-3 までのベルヌーイ数Bk の分子を割り切ることのできない素数として定義されていて,100以下の非正則素数は37,59,67ですべてですから,この3つの数以外では100までのnに対してフェルマー予想が正しいことが証明されたことになります。
非正則素数は無限に多く存在するにもかかわらず,1980年代にはフェルマー予想はほとんど正しいことは証明されていたのですが,一つもないかどうかまではわかりませんでした.まことしやかに見えるだけで真実だと断定するわけにはまいりません.「almost every n」からalmostを取り除くのが次代の数学者の課題になったのです.代数幾何学を数論に応用するというアイディアを導入してこの行き詰まりを解決することになるのですが,・・・・・.
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フェルマーの問題(1637年)を解くことは,ピタゴラス方程式を一般化した任意の2変数多項式:x^n+y^n=1に有理数解があるかどうかに置き換えて考えることができますが,見かけのシンプルさとは裏腹に,人類の頭を悩まし続け,多くの高名な数学者がフェルマー予想に挑戦したにもかかわらずことごとくそれを退けてきました.
2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線(有理曲線)と呼びます.与えられた曲線が有理曲線かどうかを判定するには曲線の種数を求めればよく,それが0なら有理曲線になります.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.2次曲線はすべて有理曲線ですが,楕円曲線は有理曲線でないことが知られています.すなわち,円錐曲線の有理点は無限ですが,楕円曲線の有理点は有限です.
ジーゲルの有限性定理(1929年)
「三次曲線ax^3+by^3=cや楕円曲線y^2=ax^3+bx^2+cx+dなど,3次以上の不定方程式には一般に整数解が有限個しかない.」により,すべての2変数多項式の可解性が決定したわけではありませんが,少なくとも2変数2次多項式,たとえば,ax^2+by^2=z^2の可解性条件はわかったことになります.
また,モーデル・ファルティングスの定理(1983)とは,「種数が2以上の代数曲線は有理点を有限個しかもたない.」というものです.2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線と呼んでいます.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.したがって,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.また,リーマン・フルヴィッツの公式よりフェルマー曲線は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.
a^p+b^p=c^pを満たすような楕円曲線:
y^2=x(x+a^p)(x−b^p)
が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,これ以上はかなりこみいった話になるので追求しないでおきましょう.
楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示すのですが,約400年ものあいだ未解決の数学的難問にこのようにして証明を与えたのは,イギリス人で米国プリンストン大学の数学者ワイルズです(1994年).
かくして「フェルマー予想」は「フェルマー・ワイルズの定理」となったのです.→コラム「フェルマー・ワイルズの定理と狭すぎた余白」参照
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