■19四乗数定理(その8)
4n+3の形の数は2個の平方数の和で表せませんが,同様にして,8n+7の形の数は3個の平方数の和では表せません.しかし,すべての正の整数は高々4個の整数の平方和で表されるというのが,ラグランジュの定理(4平方和定理)です.
幾何学的に考えると,ラグランジュの定理は4次元空間内の原点を中心とする半径√nの球面には必ず格子点があることを主張しているわけです.それに対して,半径√nの2次元の円,3次元の球には格子点が存在するとは限らないのです.
1770年,ウェアリングは4平方和定理を拡張して,
「任意の整数はたかだか9個の3乗数の和として,あるいは19個の4乗数の和として表される」
ことを証明抜きで主張しました(9三乗数定理,19四乗数定理,・・・).これが,有名なウェアリングの問題です.
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g(2)=4(4平方和定理)は1772年ラグランジュにより,g(3)=9は1909年ヴィーフェリッヒによって証明されました.
4^k(8n+7)の形の数は4個の2乗を必要とするのに対して,9個の3乗を必要とする数は,たった2つの場合だけが知られています.
23=2・2^3+7・1^3
239=2・4^3+4・3^3+3・1^3
そして,1939年,ディクソンは23,239以外の整数はすべて8個の3乗数の和で書けることを示しています.(8個の立方数の和としてしか表せない自然数は15,22,50,114,169,175,186,212,231,238,303,364,420,428,454の15個だけである.)
ウェアリングの問題は,2次形式ではなく高次形式を扱っていて,多くの数学的思考を刺激しました.そして,1909年,ヒルベルトによって
「どの数もg個のk乗数の和で表される」
ことが肯定的に証明されています.
n=x1^k+・・・+xg^k
ヒルベルトはg(k)の値がkのみによって表されることを証明したのですが,それはg(k)の存在のみを証明したのであって具体的な値を決める方法を示したものではありませんでした.
1859年,リューヴィルはg(4)≦53を示しました.g(4)=19ですからこの結果は実際とはかなり隔たりがあるのですが,g(4)の限界を与える方法を初めて示したことになります.そのあたりからいろいろな研究がなされることになりました.そして,19四乗数定理:
「すべての正の整数は19個の4乗数の和で表される」
は1986年に証明されています.つまり,ウェアリングの問題(18世紀)も200年以上かかって解決されたことになります.
なお,g乗数は平方数よりもずっとまばらにしか分布しませんから,以下,37個の5乗数の和,73個の6乗数の和,・・・と続きますが,高次形式の理論はまだ発展途上にあり,この最良値を完全に決めることはまだできていません.
とはいっても現在,k≧6でのg(k)の値はほぼ決まっていて,
g(6)=73,g(7)=143,g(8)=279,
g(9)=548,g(10)=1079,・・・
したがって,37五乗数定理だけが残されたことになる・・・と私は記憶していたのですが,
[参]水上勉「チャレンジ!整数の問題199」日本評論社
にはg(5)=37は1964年に証明されたとあります.
1772年 g(2)=4
1909年 g(3)=9
1964年 g(5)=37
1986年 g(4)=19
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実は,ガウス記号を用いて
g(k)=2^k+[(3/2)^k]−2
の式が正しいだろうと予想されています.1≦k≦10では
k 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
下界 1 4 9 19 37 73 143 279 548 1079
となり,ここに示した値はすべてこの式を満たし,かなりの範囲のところまで正しいことが確認されます.
g(k)≧2^k+[(3/2)^k]−2
の不等式を証明したのはオイラーの息子,ヨハン・アルブレヒト・オイラーです(1772年).この不等式の証明は
[参]水上勉「チャレンジ!整数の問題199」日本評論社
のQ191(p272)に掲載されています.簡単でいてしかも面白い証明ですの是非お読みください.
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[補]自然数nが2つの平方数の和であるための必要十分条件は
「nを素因数分解したとき,4k+3の形の素数が偶数乗で現れる」ことである.
[補]自然数nが3つの平方数の和であるための必要十分条件は
「nが4^n(8k+7)の形でない」ことである.
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