■4平方和定理と15定理(その4)

[3]オイラー・ラグランジュの定理(4平方和定理)

 また,前述の数値実験から

  「すべての正の整数は,g個の平方数の和として表すことができるだろうか? さらに,gの最小値はいくつであろうか?」

というより高度な問題が派生します.

  「すべての正の整数は4個の整数の平方和で表される」

というのが,ラグランジュの定理なのですが,驚くべきことに,7のみならず任意の自然数はたった4つの平方数の和の形に表せるのです.

  7=2^2+1^2+1^2+1^2

  2=1^2+1^2+0^2+0^2

このことを,シンボリックに書くと

  n=□+□+□+□

となります.□は平方数の意味です.

 オイラーはこの定理の直前まで行きながら,最後の段階で成功しませんでした.ラグランジュはオイラーの研究成果からアイデアを得て,1772年,最後の段階を突破したのですが,その証明中で用いられる基本公式が

  x=ap+bq+cr+ds,

  y=aq−bp+cs−dr,

  z=ar−bs−cp+dq,

  w=as+br−cq−dp

とおくと

  (a^2+b^2+c^2+d^2)(p^2+q^2+r^2+s^2)=x^2+y^2+z^2+w^2

が成り立つというもので,1748年にオイラーによって証明されています.

 この基本公式はハミルトンの4元数(1843年)を使ったうまい方法でも証明されますが,それにしても,オイラーはどのようにして発見したのでしょう? なお,四元数は複素数に似ていますが,ただ1つではなく3つの虚数をもつ数体系で,i^2=−1,j^2=−1,k^2=−1,ij=k,jk=i,ki=j,ji=−k,kj=−i,ik=−jなる性質をもち,

 (x+yi+zj+wk)(x−yi−zj−wk)=x^2+y^2+z^2+w^2

となります.

 上に掲げた基本公式は,4つの平方数の和となっている数は積の演算で閉じていること,すなわち,n1が4つの平方数の和ならば,n1n2もそうであることを示しています.これにより,ラグランジュの定理を証明するには,すべての素数pが4つの平方数の和であるということの証明に帰着されることになります.また,

  2=1^2+1^2+0^2+0^2

ですから,pは素数と仮定してもよいわけです.

 すべての奇素数pが4つの平方数の和であることの証明も,背理法の1種である無限降下法によって証明できるのですが,これについては最近出版された

  J.S.Chahal著,織田進訳「数論入門講義」共立出版

にわかりやすい解説がありましたので,それに譲ることにします.

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[補]頭の体操? 純然たる数学?

 ラグランジュの定理は2次形式の問題なので,n次元空間における格子点の配置の問題として幾何学的にも考えることができます.それによると,1から10までの整数は

  (1,2,4,5,8,9,10),(3,6),(7)

の3群に分けることができます.

 すなわち,2個以下の平方数の和で表される整数,3個の平方数の和で表される整数,4個の平方数の和で表される整数というわけです.あるいは,平方数を独立させて,

  (1,4,9),(2,5,10),(3,6),(7)

の4群に分けるほうがよりスマートでしょう.

 それでは

  (2,3,4,5,7,8,9),(6,10)

の2群がどのような規則で分けられたものか,各自,考えてみて下さい.

 答は2つ以上の異なる素数の積になっているのが(6,10)です.

  6=2×3,10=2×5

 素数や4=2^2,8=2^3,9=3^2のように1つの素数のベキ乗になっている数は,(2,3,4,5,7,8,9)の群に入ります.実はこの問題は単なるクイズではなく,れっきとした数学の問題です.

 代数学の教えるところによれば,n元の体(加減乗除の演算が定義された集合)が存在するための必要十分条件は,nが素数(のベキ乗)になっていることで,位数2,3,4,5の体は存在するが,位数6の体は存在しない.そして,位数7,8,9の体は存在して,位数10のものは存在しないのです.

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