■コクセター群(その5)
【3】基本単体に関する反転によって生成される群
結論を先にいってしまいましたが,とはいっても,これには大変な手間がかかります.その理由はn(≧4)次元図形になると計算に頼らざるをえず,例外型のルート系を漏れなく調べるのが大変になるからです.以下には考え方の基本になる一般論をいささか天下り的に与えておきます.
n次元空間の正多胞体とは「n個の超平面に囲まれ,全体の中心onから各頂点o0,各辺の中点o1,各面の中心o2,・・・,各超辺の中心on-2,各超平面の中心on-1までの距離がそれぞれ相等しく,そのm次元成分はすべてm次元の正多胞体である」と定義されます.
このとき,onon-1・・・o1o0を結んだn次元単体を「基本単体」と呼びます.o0o1,o1o2,・・・,on-1onは互いに直交するので,n次元正多胞体の諸量を計算するための基本となっています.基本単体は万華鏡のように隣同士が互いに鏡像形で,半分ずつが互いに合同です.
基本単体の個数gは正多胞体にとって最も大切な基本量です.基本単体は隣同士が鏡像形であり,半分ずつが互いに合同であることより,3次元正多面体の基本単体の個数は
g=2pf=2qv=4e
すなわち,正多面体の辺の個数eの4倍と等しくなります.この基本領域は超球面上,または,ユークリッド空間内の単体になるのですが,それに応じて有限群(正多面体)か離散無限群(空間充填形)になります.
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aを行ベクトル,xを列ベクトルとして
a=(a1,・・・,an)
x’=(x1,・・・,xn)
実数をcとおくと,n次元ユークリッド空間の超平面は,
ax’=c
で表すことができます.原点を通るときc=0です.
ベクトルaを超平面の法線ベクトルと呼びます.法線ベクトルはスカラー倍を除いて一意に定まります.aをその長さ‖a‖で割ったベクトルa/‖a‖を考えると,これは長さ1の単位法線ベクトルとなります.
また,aが単位法線ベクトル,すなわち,
a1^2+a2^2+・・・+an^2=1
が成り立つとき,cは原点から超平面へ引いた垂線の(符号のついた)長さとなります.
n=1なら方程式はax=bですから,超平面は点にほかなりません.n=2ならax+by=cとなり,超平面は直線,n=3ならax+by+cz=dですから,超平面は平面を表します.3次元空間内の超平面が普通の平面だし,2次元空間内の超平面は直線ですから,n次元空間の場合,n−1次元の線形多様体を超平面というのです.
超平面<a,x>=0に対するbの反転像をb’とすると,b−b’はaに平行であり,
b−b’=2<b,a>/<a,a>
なる関係式が成立します.
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2次元の正多角形はその辺数pで,3次元の正多面体は面の辺数pと各頂点に会する面の個数qをペアにしたシュレーフリ記号(p,q)で表されます.それと同様に,n次元正多胞体ではシュレーフリ記号を一般化して,n−1次元超平面(p1,p2,・・・,pn-2)が3次元低い構成要素上にpn-1個ずつ会する,
(p1,p2,・・・,pn-2,pn-1)
で表現されます.
たとえば,
n次元正単体は(3,3,・・・,3,3),
双対立方体は(3,3,・・・,3,4),
超立方体は(4,3,・・・,3,3)
と表されます.これを逆順にした(pn-1,pn-2,・・・,p1)で表される正多胞体が双対正多胞体です.ここで,
ck=cos(π/pk)
とおきます.
また,n次元単位単体Δ=onon-1・・・o1o0を定め,1点から各面(超平面)までの距離を(x0,x1,・・・,xn)とします.(x0,x1,・・・,xn)は2次元の三線座標のn次元版です.
すると,定数c0,c1,・・・,cnについて
c0x0+c1x1+・・・+cnxn=1
が成立します.さらに,各面(超平面)の単位法線ベクトルをekとすると,n+1本のベクトル間には
c0e0+c1e1+・・・+cnen=0 (ゼロベクトル)
なる1次関係があります.
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ここで,基本行列
[0,c1 ,0,・・・・・・・・・,0]
[c1 ,0,c2 ,0,・・・・・・,0]
C=[0,c2 ,0,c3 ,0,・・・・,0]
[・・・・・・・・・・・・・・・・・・]
[0・・・・・・・・・・・,0,cn-1 ]
[0,・・・・・・・・・0,cn-1 ,0]
を作り,固有方程式
Pn(λ)=det|λI−C|=0
からその固有ベクトル(1次変換によって同じ方向に写るベクトル)と固有値λ(その拡大率)を求めるのですが,これを解くとCの固有ベクトルが基本単体の超平面に関する反転列R1・・・Rnによって不変なベクトルとなります.(頂点okに対する超平面Πkに関する反転を便宜上番号をずらせてRk+1としています.)
また,三重対角行列となることから,漸化式
Pn+1(λ)=λPn(λ)−cn^2Pn-1(λ)
P1(λ)=λ,P2(λ)=λ^2−c1^2
を得ることができます.
空間充填形の固有値についてはλ=±1となるのですが,正多面体については|λ|<1で
λ=cosξ,ξはπと有理比
と書くことができます.その際,最大固有値が重要なのですが,最大固有値をとるξ(の最小値)はペトリー数hを用いてπ/hで表されます.
λmax=cos(π/h)
ペトリー数とは,反転が何回でもとに戻るかという鏡像変換に関係した基本量で,基本単体の数をgとすると,3次元正多面体では
g/h=(h+2)=24/(10−p−q)
4次元正多胞体の場合は
g/h=64/(12−p−2q−r+4/p+q/4)
で表されます.
基本単体の超平面に関する反転列R1・・・Rnによって全周の1/hだけ回転するのですが,nが奇数ならばこれに反転が加わり,nが偶数ならば本来の回転となります.そして(R1・・・Rn)^(h/2)は中心に対する反転となるのです.
なお,正n角形にはn本の対称軸がありますが,正多面体の対称面の個数は?n次元の正多胞体に対称超平面は合計何枚あるのか?という問題の答は,nを次元数,hをペトリー数として
m=nh/2
枚で与えられます.正多角形の対称軸の数m=2n/2において,分子の2は平面の次元数と解釈できます.また,3次元正多面体の対称面はm=3h/2個ですが,3は次元数です.
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