■コクセター群(その2)

【1】ルート系

 鏡像で生ずる有限群(あるいは無限離散群)は正多面体群よりももっと広い対象になります.次の問題をみてみましょう.

(問)1つの3角形を辺に関して次々折り返していって,3角形が互いに重なることなく,平面を埋めつくすことができるか?

(答)この問題も平面を鏡映三角形で埋めるというものですが,市松模様という条件がなくなっているので,1つの頂点に会する三角形は偶数に限る必要はありません.

  α=2π/p   ただし,pは3以上の自然数.

 まったく,同様に残り2つの内角に対しても

  β=2π/q,γ=2π/r

 また,α+β+γ=πより

  1/p+1/q+1/r=1/2

が成り立ちます.

 ここで,3≦p≦q≦rと仮定すると

  1/2=1/p+1/q+1/r≦3/p

より,3≦p≦6

 さらに,pが奇数のとき,頂点Aからでる2辺の長さは等しくならなければなりません.そうしないと,折り返しでうまく重ならないからです.したがって,

(i)p=3のとき,q=rなので,

  q(q−12)=0

これより,(p,q,r)=(3,12,12)

(ii)p=4のとき,(q−4)(r−4)=16

これより,(p,q,r)=(4,5,20),(4,6,12),(4,8,8)ですが,(p,q,r)=(4,5,20)は必要条件を満たすものの,十分条件を満たさない,すなわち,1点のまわりだけは完全に埋められても平面のタイル張りになりません.凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものも平面充填はうまくいかないのです.

(iii)p=5のとき,q=rより,

  q(3q−20)=0

これを満たす3以上の整数はありません.

(iv)p=6のとき,(q−3)(r−3)=9

これより,(p,q,r)=(6,6,6)

 結局,求めるタイル張りは

  (6,6,6) → 正三角形

  (4,8,8) → 直角二等辺三角形

  (4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形

  (3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形

の4通りあることになり,実際に十分条件を満たします.

 30°,30°,120°の角をもつ三角形が新たに加わりました.この三角形は正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様(G2)です.「麻の葉」文様と呼ばれるくり返し文様なのですが,日本では古くから装飾工芸品や寄木細工のデザインなどとして用いられていますから,ご存じの方も多いと思います.

 30°,60°,90°のモザイクは,30°,30°,120°の三角形からなるモザイクをさらに2個の直角三角形に分解してできる模様(G2),直角二等辺三角形モザイクは正方格子(4,4)を4分割したもの(B2=C2),正三角形は正三角形格子(3,6)そのもの(A2)です.

 ルート系では,ベクトルの間の角度は30°,45°,60°,90°またはその補角に限られるので,2次元の可能なルート系は

  A2(正六角形:正三角形格子)

  B2=C2(正方形)

  G2(星形六角形:正6角形を2個合わせたもの)

しかありません.

 以下,ルート系について説明しますが,たとえば,面心立方格子や対心立方格子などの結晶格子には,空間中の格子点の位置を表すのに単純並進ベクトルと呼ばれる3つのベクトルがあり,その長さと角度によって,それぞれの格子の構造を特徴づける係数が得られます.もちろん,3つのベクトルa↑,b↑,c↑の選び方は一義的には決まらず,いろいろな選び方があるのですが,上記の4種類の鏡映三角形からなるモザイク模様に対しても同様に,R^2のベクトルの集合を考えることができます.

(6,6,6) → Φ1={a↑,b↑,a↑+b↑}

(4,8,8) → Φ2={a↑,b↑,a↑+b↑,2a↑+b↑}

(4,6,12)→ Φ3={a↑,b↑,a↑+b↑,2a↑+b↑,3a↑+b↑,3a↑+2b↑}

(3,12,12)→Φ4={a↑,b↑,a↑+b↑,2a↑+b↑,3a↑+b↑,3a↑+2b↑}

 2つのベクトルa↑,b↑はルート系の基底,また,このようにして得られたベクトルの集合Φ1,・・・,Φ4を階数2のルート系と呼ぶのですが,平面を鏡映三角形で埋めつくす問題を一般の次元に拡張して,R^nの単体に置き換えて得られるベクトルの集合が一般の階数のルート系となります.

 たとえば,R^8の標準基底をe1,・・・,e8とすると,E8型ルート系は,

  Φ={e1−e2,・・・,e7−e8,e0−e1−e2−e3}

のように求まります.ルート系の分類は,それ自体大変面白いものなのだそうですが,既約ルート系の同型類には,AからGまでのアルファベットに,添字として階数をつけた名前(カルタンの命名による慣用的な記号)が付いていて,E8型ルート系などと呼ぶ習慣になっています.

 ルートは鏡映を与えるベクトルとして理解することができるのですが,8次元ユークリッド空間において,8次元単体(4面体の拡張)を鏡映したものからなるモザイク模様に対してベクトルの集合を考えることによって,E8型ルート系が得られるというわけです.そして,2つのベクトルの間の角θは,

  θ=30°,45°,60°,90°(またはその補角)

に限られます.これはカルタン数(2cosθ)^2が整数となる値です.

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