■相転移の幾何学(その31)

 デュドニー分割では,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されている.この立体版の分割も考えることができる.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものである.このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」「ブタハム」があげられる.

 もし,菱形十二面体と切頂八面体の間の相互移行が可能な立体蝶番返しを作ることができれば(パズル愛好家がよろこぶものになるばかりでなく)直接,最密充填と最疎被覆の間の相転移のメカニズムを解き明かしてくれるので,物理現象にも応用可能ということになるわけである.

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【1】平行多面体の変身

 菱形十二面体や切頂八面体はよく知られた空間充填立体であるが,実際,菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返しなど空間充填形同士の蝶番返しが作られていて,秋山先生はこのようなリバーシブルな等積変形多面体をすべて決定する試みをされている.

 xxxなる性質をもつものをすべて決定せよという数学的試みはどれも一筋縄ではいかないものであると思うが,数学的にいって,変身立体は「分解合同」よりも格段難しい「リバーシブル分解合同」問題である.「変身立体」=「リバーシブル分解合同」が「ペンタドロン」=「分解合同」よりも優れた相転移模型と考えられる所以である.

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【2】弱変身定理から強変身定理へ

 平行多面体の変身立体についてはすでに完全な結論は得られていて,5種類ある平行多面体相互間の変身10種とそれ自身への変身5種はすべて可能であることが確認されている.

 とはいっても,一足飛びに「強変身」であることが実証されたわけではない.当初は

[1]菱形12面体→六角柱

[2]切頂8面体→六角柱

[3]長菱形12面体→六角柱

の変身では,立体Aの表面は立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているものの,立体Aの断面の一部が立体Bの内部に残ってしまう「弱変身」であることがわかったものの,「強変身」=完全に表裏を翻転させることはできなかった.

 とくに[1]に対しては完全に表裏を翻転させることは難しそうな見通しだったのだが,そうするためには発想の転換が必要になった.そして,最後まで残った1ピースはこのGW中に埋まり,かくして強変身予想は定理となった.

[定理]5種類あるフェドロフの平行多面体相互の「立体蝶番返し」は15通り考えられるが,アフィン変換した平行多面体への「立体蝶番返し」は常に強変身可能である.

に到達したのである.

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【3】雑感

 物理学が発展するにつれて自然は理解しやすいものになっていくとは限らない.電子は粒子であると思われていたのが同時に波であるとか,光も波であると同時に粒子であるとか実にパラドキシカルである.

 粒子と光はまったく違うカテゴリーの概念であると思われるのだが,これらは古典的な概念をはるかに超える存在であった.光は粒子であるか波動であるかという論争があったが,量子力学では粒子であり波であるという2重性が唱えられる.wavicle (wave+particle) という用語は定着したものとはいえないが,もともと波でも粒子でもなく,実験方法によって波のような属性,粒子のような属性を表す存在なのである.

 ついでにいうと,ソリトンとは何か? 波は空間的に拡がったもの,粒子は集中したもの,波は重なり合い互いに通過する性質があるが,粒子は衝突して方向が変わるものである.ソリトンは両方の性質を備えもち,衝突しても形が変わったり壊れたりしない.

 [参]戸田盛和「ソリトンと物理学」サイエンス社

によれば,現在の知識では,非線形性ゆえにソリトンがエネルギーを伝え,エネルギーの流れを高める役をしていると解釈される.津波や神経の電気信号パルスなどはエネルギーや運動が集中して安定化したもので,ソリトンと関係があるといえるだろう.

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【4】問題点の整理

 平行多面体のデーン不変量は0で,アフィン変換しても変わらない.また,5種類あるフェドロフの平行多面体は相互に分解合同である.しかし,それよりも強い意味での主張が

[1]5種類あるフェドロフの平行多面体相互の「立体蝶番返し」は15通り考えられるが,アフィン変換した平行多面体への「立体蝶番返し」は常に可能である(=リバーシブル分解合同).

 これで,平行多面体5種間のリバーシブル分解合同問題は完全解決したが,平行多面体のリバーシブル分解合同性は,平行多面体が空間充填可能で,中心対称かつすべてのファセットは中心対称であるという性質に負っている.

 それではその逆はどうだろうか? すなわち,

[2]平行多面体は空間充填多面体のある種のクラスであるが,空間充填多面体は常にリバーシブル分解合同だろうか?

[3]中心対称かつすべてのファセットが中心対称である多面体は,リバーシブル分解合同か?

[4]そのn次元版「n次元平行多胞体は常にリバーシブル分解合同である」ことはいえるだろうか?

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