■相転移の幾何学(その7)
チューリングは,生物の形態形成が化学反応と拡散だけで説明できるという,驚くべき仮説を唱えた.生体組織は複雑であるが,今日では自然界の様々な場所でチューリングパターンが見つかっている.貝殻の着色パターン,トラやシマウマの毛皮の模様,等々.
チューリングの残した最大の功績は,高度に複雑な構造が拡散など単純な物理的プロセスによって自律的に生まれるという考え方を広めた点にある.
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【1】二項係数とパスカルの三角形
まるで科学者に対して挑んでいるかのように思えるこの問題の数学的解答が,拡散方程式であり,その離散化が二項展開あるいは三項展開である.
二項展開(二項定理)の係数を三角形状に並べたものがパスカルの三角形である.たとえば,
(1+x)^5=1+5x+10x^2+10x^3+5x^4+x^5
で,先頭と最後が常に1となり,その間の数値は前の行の連続した数値を加えていくことに得られる.係数が奇数である場合にそのセルを黒くするとセルオートマトンの規則90
Ci(t+1)=Ci-1(t)+Ci+1(t) (mod2)
で与えられるようなネスト型の三角形パターンを生成する.
規則150
Ci(t+1)=Ci-1(t)+Ci(t)+Ci+1(t) (mod2)
は三項展開の係数と関連している.たとえば,
(1+x+x^2)^8=1+8x+36x^2+112x^3+266x^4+504x^5+784x^6+1016x^7+1107x^8+1016x^9+784x^10+504x^11+266x^12+112x^13+36x^14+8x^15+x^16で,最初と最後の係数のみが奇数である.
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