■n軸構造(その13)
ダイヤモンド格子のすべての頂点の次数は4,K4格子のすべての頂点の次数は3である.ダイヤモンド結晶が6角形の連なりからできているのに対し,K4結晶では10員環からなる網の目がみられる.
すべての頂点の次数が3である格子といえば蜂の巣(六角格子)があげられるが,同様に,すべての頂点の次数が4である格子はダイヤモンド格子ばかりではない.ダイヤモンド格子にはよく似た仲間(たとえば,ロンスデール石)がある.
[参]砂田利一「ダイヤモンドはなぜ美しい?」シュプリンガー・ジャパン
===================================
【1】グラファイト(2次元のダイヤモンド)
グラファイトは炭素原子による蜂の巣状の層が積み重なってできている.炭素原子の手は対称的ではなく,3本の手はほとんど同一平面上に乗っているが残りの1本の手が層間に長く伸びている(3.5次?).
そのため,グラファイトは層間の結合(ファンデルワールス力)が弱く,とても柔らかいため鉛筆の芯に用いられている.グラファイトは大きな劈開性と圧縮性をもつが,同じ炭素のみからなる物質でもダイヤモンドとはまったく異なる性質を有することは大変興味深い.
3本の縮まった手からなる六角格子(蜂の巣)は正三角形の重心と頂点に位置する.すべての頂点の次数は3,最大周期格子は菱形格子A2である.このことから六角格子は2次元のダイヤモンド格子と呼んでも差し支えないだろう.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[補]高次元のダイヤモンド
n次元正単体の二面角は
cosθ=1/n
中心と各頂点を結ぶベクトルのなす角は
cosθ=−1/n
で与えられる.
正三角形ではn=2,正四面体ではn=3であるから,中心と各頂点を結ぶベクトルのなす角は
cosθ=−1/2 → θ=120°
cosθ=−1/3 → θ=109.471° (正四面体角,マラルディの角)
このことは,高次元空間における正単体を考えるとき役立つだろう.
また,一般次元における既約なルート格子はAn,Dnと3種類の例外型ルート格子E6,E7,E8に分類されることはよく知られている.2次元ダイヤモンドである蜂の巣とダイヤモンドの性質を一般化すると,ルート格子の1つであるAnを考えるのが自然であろう.なお,An格子に対する接吻数はn(n+1)で与えられる.
===================================
【2】ロンスデール石
ロンスデール石は1967年,アリゾナにある隕石の落下地点で初めて発見された希少な結晶である.同年に人工的に合成することに成功したこの結晶の名前は英国の結晶学者ロンスデールに因んでいる.
ロンスデール格子を真横からみるとダイヤモンドと変わりがないが,真上からみると蜂の巣状に見える.ロンスデール格子はグラファイトに似たところがあり,隕石孔のみから発見されることより衝突下の高温高圧によりグラファイト構造を保ちつつ変性したものがロンスデール石であると考えられる.
ダイヤモンドではすべての六角形がイス型立体配置であったのに対し,ロンスデール石では舟型立体配置が存在する.舟型立体配置はイス型立体配置に較べ構造不安定で,ロンスデール石はダイヤモンドよりも柔らかい.
氷の結晶で酸素原子のみを繋ぐと,ロンスデール石とほぼ同じ形をした結晶になっている.それに対して,ダイヤモンド型の氷の結晶も存在するが,それは高圧環境下で生成された氷である.
===================================