■n軸構造(その2)

 1種類のブロックを使って,空間を隙間なく埋め尽くすにはどうすればいいだろうか? レンガはそのひとつの答えなのであるが,どんな形のブロックなら空間を埋め尽くせるだろうか? そのようなブロックをすべて決定せよというならばこれは大変な難問である.

 平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる5種類の平行多面体(フェドロフ)はよく知られているが,平行移動のほかに回転や鏡映操作も許せば,さらに多くの多面体が空間充填可能となる.ちなみに現在は4≦f≦38であるすべてのfに対し,空間充填可能な凸f面体が存在することが判明している.

 数年前,森義彦先生(福島県数学教育協議会)が

  [参]ウェルズ「不思議おもしろ幾何学事典」朝倉書店

に掲載されている空間充填18面体の紙模型を製作されたことがある.この空間充填18面体は12個の4角形面と6個の8角形面からなる多面体で,3回回転対称性を有しているものの直観ではとらえきれないほど複雑な形をしている.

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【1】空間充填18面体の計量

 この18面体はかなり複雑な形をした3回回転対称性を有する多面体であるが,分解してみると同軸の重三角錐と2つのねじれ重三角錐のintersectionとして構成することができることがわかった.

 重三角錐,ねじれ重三角錐の二面角を計算すると70.5288°(正四面体の二面角)や120°と計量される.二面角120°は3つの多面体が合して1稜をつくる際の二面角であるが,マラルディの角(cosθ=−1/3,θ=109.471°に対応する二面角でもある.

 この空間充填18面体は重三角錐Aと2つのねじれ重三角錐B,Cのintersectionとしてできているが,ねじれ重三角錐B,Cは2つの正三角錐とねじれ重三角錐台に3分割して作るしかないと思われた.そこで,三角錐の勾配角とねじれ重三角錐台のねじれ角を計算すると

          A        B        C

勾配角    22.2077  77.0284  61.8745

ねじれ角    0       46.8264  30.2132

[補]正三角形の重心と頂点を結ぶ線分のなす角はすべて120°に等しく,cosθ=−1/2である.正四面体の重心と頂点を結ぶ線分のなす角はすべて109.471°(マラルディの角)に等しく,cosθ=−1/3である.右辺に現れる分数の分母2と3は空間の次元と一致し,n次元空間における正n+1胞体の重心と頂点を結ぶ線分のなす角はcosθ=−1/nとなる.

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【2】空間充填18面体の着想は如何に?

 ところで,この空間充填18面体はどのような着想で得られたものなのだろうか.当初は正四面体をもとにして設計されたものではないかと推察した.正四面体は単独では空間充填できない.また,正四面体の辺の3等分点で切頂すると切頂四面体となるが,切り取った小正四面体を各面と底面として中心から四等分するとマラルディの角が現れる.この三角錐片の二面角が120°である.そして,その三角錐片を切頂四面体の切頂面に載せた形(森先生のレポートでは扁平頂四面体と呼ばれている)は単独で空間充填し得るようになる.しかし,この組み上げ方は正多面体と同じ対称性をもつ空間充填図形であり,18面体の組み上げ方とは異なるようである.

 森先生のレポートによると,この18面体には裏返し(鏡映対称)の多面体もあるが,どちらか一方だけを用いることにして,8個で平行移動するだけで(回転や反転をさせなくても)3次元空間を埋めつくすことのできる単位ブロックになるという.実際に単位ブロックの面数を数えてみたところ,凹106面体であった.この凹106面体は単位ブロックであるから,平行多面体(立方体,六角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂八面体)のいずれかを変形(平行な位置にある面はすべて同じように変形)させ凹凸をつけたものになるはずである.実際,平行六面体の平行な位置にある面をすべて同じように変形させ凹凸をつけたものになることはわかったものの,平行六面体をどのようにねじれ重角錐や重角錐に分割するのか,空間充填18面体はどのように着想して得られたものなのか皆目見当がつかない.

 そんな折り,中川宏さんからのメールで空間充填18面体の構造が切稜立方体をつなぎ合わせてつくったかご状構造に一致していることが確かめられた.このかご状構造は面心立方格子の格子点をまばらに間引いた構造になっていて,その意味ではダイヤモンド構造と類似しているといってよいだろう.このことをきっかけにして,この空間充填18面体が周期的4軸構造をなしていることの理解に至った.

 正四面体の重心と頂点を結ぶ線分のなす角はすべて109.471°(マラルディの角)に等しく,cosθ=−1/3である.空間充填18面体の場合もその4軸はそれぞれ109.471°をなしているのだが,正四面体の場合とは違って,回転対称軸同士が交わらずにねじれの位置にあり,3回対称軸の周りで120°回転させると回転操作に伴って4軸がどれかの4軸に移るという関係になっている.以下に4軸構造模型の写真を掲げる.その中心にあるのは菱形十二面体である.菱形十二面体には平行な辺が4組あり,それが4軸を決定するのである.

 4軸をどれかの4軸に移す回転操作全体は正4面体群をなし,その位数は12である.単位ブロックとなる8個の18面体の組み上げ方にも何種類かあるが,18面体には8角形面が6面あるため,いずれも1個の周りに6個の18面体が8角形面で接し,この7個に中心の18面体と同じ軸のものをもう1個どこかにつけ加えた8個が単位ブロックになっていて,8個のうち2個ずつが同軸になる.

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