■準周期的構造(その4)

【4】黄金菱形多面体による非周期的充填

 3次元空間の非周期的充填には5種類の黄金平行多面体によるものが知られています.

 ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,対角線の比が白銀比になっている菱形を12個組み合わせてできる菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.

 黄金菱形平行6面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.

 これらはコクセターにより,A6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられていて,それぞれ3次元から6次元までの立方体の投影の外殻になっています.すなわち,黄金平行多面体は5種類あり,黄金菱形をある方向に平行移動させたものがA6,O6であり,それをさらに平行移動させるとB12が,続いてF20が,最後にK30が生まれます.

 したがって,A6とO6は3次元の,B12は4次元の,F20は5次元の,K30は6次元の立方体とそれぞれ同等になります.また,B12の中には2つずつのA6とO6が,F20の中にはひとつのB12と3つずつのA6とO6が(いいかえればF20の中には5つずつのA6とO6が),K30の中にはひとつのF20と5つずつのA6とO6が(いいかえればK30の中には10個ずつのA6とO6が)それぞれ入っていることになります.

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 K30は10個ずつのA6とO6でできるのですが,ところで,20個のA6でできる多面体に「花形十二面体」があります.中川宏さんに木工模型を作っていただいたのですが,桔梗の花に似た凹60面体であって,中川さんのお話では山頂を結ぶと正12面体,峠を結ぶと20・12面体,谷底を結ぶと正20面体になっているとのことです.

 すなわち,この多面体は5回対称性を有しているのですが,花弁の中心を通る軸が5回対称軸,尖った頂点を通る軸は3回対称軸,花弁の縁の窪みを通る軸が2回対称軸になっているそうです.「花形十二面体」は小川泰先生がペンローズ格子(3次元版)について研究中に見つけられて,命名された多面体とのことでまさしく「黄金の華」です.

[補]3次元の複合正多面体には5種類あります.2個の正四面体が集まるもの(ケプラーの八角星)を除く,5個の正四面体,10個の正四面体,5個の立方体,5個の正八面体が集まるものは正20面体と同じ回転対称性をもっています.5個の立方体よりなる複合正多面体に数種類の多面体を貼り合わせても「花形十二面体」ができます.

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