■フェルマーの最終定理と有限体(その110)

 保型形式が最初に現れたのは,1750年のオイラーによる五角数定理

  Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))   m(3m-1)/2は五角数

ですが,これを3乗した形の展開結果はかなり簡単になり,ヤコビの公式(1829年)

  Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2)   (m^2+m)/2は三角数

が得られます.これらはヤコビの3重積公式の特別な場合になっています.

 ヤコビの公式を経て,数論はラマヌジャンの保型形式論の時代(24乗の場合)に突入します.オイラー数(オイラーの分割数)

  f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)

    =Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・

すなわち,Π(1-x^n)^(-1)は分割数p(n)の母関数なのですが,それと同様にして,ラマヌジャン数が定義できます.

  f(x)=xΠ(1-x^n)^24=x{(1-x)(1-x^2)(1-x^3)・・・}^24

    =Στ(n)x^n=τ(1)x+τ(2)x^2+τ(3)x^3+・・・

  

 ラマヌジャンは,デデキントのイータ関数(重さ1/2をもつモジュラー関数),

  η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n),q=exp(2πiz)

とおくと

  Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n

      zは虚部が正の複素数で,q=exp(2πiz)

を考え,そのフーリエ係数τ(n)を計算しました.

  τ(1)=1,τ(2)=-24,τ(3)=252,τ(4)=-1472,τ(5)=4830,τ(6)=-6048,

  τ(7)=-16744,τ(8)=84480,τ(9)=-113643,τ(10)=-115920,

  τ(11)=534612,τ(12)=-370944,・・・

 無限積をベキ級数に展開した式(フーリエ展開)が登場しましたが,このΔ(z)は,重さ12の保型形式

  Δ(az+b/cz+d)=(cz+d)^12Δ(z)

と呼ばれるものになっていて,オイラーの五角数公式を拡張した24乗版と考えられます.

 ラマヌジャン数は,オイラーの分割数のアナローグであり,

(1)mとnが素ならば,τ(m)τ(n)=τ(mn)

  τ(2)*τ(3)=-6048=τ(6),τ(2)*τ(5)=-115920=τ(10)

  τ(3)*τ(4)=-370944=τ(12),τ(2)*τ(9)=2727432=τ(18)

  τ(4)*τ(5)=-7109760=τ(20),τ(3)*τ(7)=-4219488=τ(21)

(2)τ(p^(n+1))-τ(p^n)τ(p)=-p^11τ(p^(n-1))

(3)τ(n)=σ11(n)(nの約数の11乗の総和)  (mod 691)

など驚くような性質をもっています. このようにフーリエ係数がnに関して乗法的性質をもつ保型形式は,ヘッケ固有形式と呼ばれるです.

 また,ラマヌジャンは保型形式を用いて,

  Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504

  Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π

  Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240

  Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)

を証明しています.ここで,πとωはそれぞれ,

  π=2∫(0,1)1/√(1-x^2)dx=3.14159・・・(円周率)

  ω=2∫(0,1)1/√(1-x^4)dx=2.62205・・・(レムニスケート周率)

です. これらの等式は,積分表示   ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx の離散化ともみることができます

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