■ブラーマグプタ・バースカラ・チャクラバーラ法(その85)

 mを平方数でない自然数とすると,いわゆるペル方程式とは

  x^2−my^2=±1

で表されるものです.ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.たとえば,

  x^2−199y^2=±1

の解を求めようと思ってもなかなか見つかりません.

それもそのはずで,この最小解は

  (16266196520,1153080099)

のようにとても大きなものになってしまいます.これではいくら式を眺めたところでわからないのは無理もありません.

 この解を合理的に出すには,√199の連分数展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

を用います.9〜28は循環節(周期20)です.

 このペル方程式は,実2次体Q(√199)と関係しているのですが,

x^2−m=0の根√mを添加して得られる体Q(√m)の元は一意的に

  a+b√m

の形で表されます.そして,一般に0,1以外の平方因数をもたない整数m,

  −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・

によって,Q(√m)は体になります.

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[1]基本単数

 まず最初に,実2次体Q(√m)の基本単数について説明することから始めたいと思います.Q(√m)を2次体とするとき,a+b√mの共役をa−b√mで表します(m<0ならば通常の複素共役である).このとき,その標準底は

 ω=√m         m=2,3(mod4)

 ω=(1+√m)/2   m=1(mod4)

で与えられます.

 そして,単位元「1」の約数を単数といいます.m>0のとき,単数群は

  {±1}×C(Cは乗法的巡回群)

によって与えられます.また,εをε>1なる最小の単数とするとき,

  C={±ε^n}

と表すことができ,εをQ(√m)の基本単数といいます.

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 実2次体の基本単数は一意に定まります.Q(√m)を実2次体とすると,

[a]m=2,3(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=a+b√m

  ε~=a−b√m

εが単数←→εε~=a^2−mb^2=±1

また,

  ε^n=an+bn√m

と書くと

  ε^(n+1)=ε・ε^n=(a+b√m)(an+bn√m)

      =aan+bbnm+(abn+ban)√m

 これより

  an+1=aan+bbnm

 このことから0<a1<a2<・・・,0<b1<b2<・・・となるのですが,a,bはペル方程式:

  a^2−mb^2=±1

の解の中で(a,b)が最小なものとして与えられます.ペル方程式の自明な解(a=±1,b=0)には単数±1が,自明でない解のなかで絶対値|a|または|b|が最小なものには基本単数が対応するというわけです.

 Q(√2),Q(√3),Q(√6),Q(√7)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−2y^2=±1,複号は−1で(1,1)が最小→ε=1+√2

  x^2−3y^2=±1,複号は+1で(2,1)が最小→ε=2+√3

  x^2−6y^2=±1,複号は+1で(5,2)が最小→ε=5+2√6

  x^2−7y^2=±1,複号は+1で(8,3)が最小→ε=8+3√7

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[b]m=1(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=(a+b√m)/2   a=b(mod2)

と書けば

  a^2−mb^2=±4

となること以外は前と同様です.

 Q(√5),Q(√13)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−5y^2=±4,複号は−4で(1,1)が最小→ε=(1+√5)/2

  x^2−13y^2=±4,複号は−4で(3,1)が最小→ε=(3+√13)/2

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