■フェルマーの最終定理と有限体(その30)

 今回のコラムでは有限体上のフェルマー曲線  x^3+y^3=z^3について調べてみることにしました.

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【1】有限射影平面

 フェルマーの問題:x^n+y^n=z^nを有限体Fp上で考えてみましょう.ただし,(x,y,z)=(0,0,0)は除外することにします.

 また,(x,y,z)が解ならば(tx,ty,tz)も解なので,

  (x,y,z)=(2x,2y,2z)=・・・=((p-1)x,(p-1)y,(p-1)z)

よりp−1個の点は同じ点とみなすことができます.

 すなわち,有限射影平面P^2(Fp)で考えることになるのですが,有限射影平面についてはコラム「群と魔方陣」「球の充填と格子」でも説明したとおりですので省略します.また,解の個数イコール

  {(x,y,z)|x^n+y^n=z^n,x,y,zはFpに属する}

をみたすP^2(Fp)の点の個数をNpと書くことにします.

[1]フェルマーの問題はn=1のときにはx+y=zという単なる足し算ですから,xとyにどんな自然数を入れても自然数zは必ず存在します.この問題を有限体Fp上で考えるとxはp通り,yもp通りでzは必ず存在しますから,全部でp^2通り,それから(0,0,0)を除いてp^2−1通り.同じものがp−1組ありますから,

  Np=(p^2−1)/(p−1)=p+1

が答えになります.

[2]n=2の場合はピタゴラス方程式x^2+y^2=z^2と呼ばれ,無数の解をもち,しかもすべての解をもれなく求めることのできる公式も知られています.

 有限体上で考えると,p=5では

  x |0,1,2,3,4

  x^2|0,1,4,4,1

ですから

x\y 0 1 2 3 4

0 (0,0,0) (0,1,1) (0,2,2) (0,3,2) (0,4,1)(0,1,4) (0,2,3) (0,3,3) (0,4,4)

1 (1,0,1) (1,2,0) (1,3,0)(1,0,4)

2 (2,0,2) (2,1,0) (2,4,0)(2,0,3)

3 (3,0,2) (3,1,0) (3,4,0)(3,0,3)

4 (4,0,1) (4,2,0) (4,3,0)(4,0,4)

 (0,0,0)を除いた24個の解で,たとえば,

  (1,2,4)=(2,4,3)=(3,1,2)=(4,3,1)

は同じ点とみなすことができるわけですから,4個ずつ組になり

  N5=24/4=6=5+1

 p=7では

  x |0,1,2,3,4,5,6

  x^2|0,1,4,2,2,4,1

より

x\y 0 1 2 3 4 5 6

0 (0,0,0) (0,1,1) (0,2,2) (0,3,3) (0,4,3) (0,5,2) (0,6,1)(0,1,6) (0,2,5) (0,3,4) (0,4,4) (0,5,5) (0,6,6)

1 (1,0,1) (1,1,3) (6,1,3)(1,0,6) (1,1,4) (6,1,4)

2 (2,0,2) (2,2,1) (2,5,1)(2,0,5) (2,2,6) (2,5,6)

3 (3,0,3) (3,3,2) (3,4,2)(3,0,4) (3,3,5) (3,4,5)

4 (4,0,3) (4,3,2) (4,4,2)(4,0,4) (4,3,5) (4,4,5)

5 (5,0,2) (5,2,1) (5,5,1)(5,0,5) (5,2,6) (5,5,6)

6 (6,0,1) (6,1,3) (6,6,3)(6,0,6) (6,1,4) (6,6,4)

 (0,0,0)を除いた48個の解で6個ずつ組になりますから

  N7=48/6=8=7+1

 どちらも

  Np=p+1

となりましたが,任意のpにおいてこれが成り立つことは

  x^2=a  (modp)

においては

  (p−x)^2=x^2  (modp)

より,{1,2,・・・,(p−1)/2}の各平方と{p−1,p−2,・・・,(p+1)/2}の各平方が合同となり,したがって半数が平方剰余,残りの半数が平方非剰余になることから理解されます.

 また,

  x^2|0,1,4,4,1

  x^2|0,1,4,2,2,4,1

のように最初の0を除いた部分は回文(前から読んでも後から読んでも同じ)になっているという事実もこのことから理解されるでしょう.

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【2】x^3+y^3=z^3 on Fp

 n=3の場合はオイラー(1770年)によって自然数解をもたないという証明が与えられましたが,今度は同じことを有限体について考えてみます.

 p=5では

  x |0,1,2,3,4

  x^3|0,1,3,2,4

となり,任意のaに対してx^3=aを満たすxが存在することがわかります.

 n=3では

  (p−x)^3=x^3  (modp)

が成り立たないので,半数が3乗剰余ということは保証されておらず,このように全数が3乗剰余ということもあり得るのです.

 この場合,

x\y 0 1 2 3 4

0 (0,0,0) (0,1,1) (0,2,2) (0,3,3) (0,4,4)

1 (1,0,1) (1,1,3) (1,2,4) (1,3,2) (1,4,1)

2 (2,0,2) (2,1,4) (2,2,1) (2,3,0) (2,4,3)

3 (3,0,3) (3,1,2) (3,2,0) (3,3,4) (3,4,1)

4 (4,0,4) (4,1,0) (4,2,3) (4,3,1) (4,4,2)

となって,(0,0,0)を除いた24個の解で4個ずつ組になりますから

  N5=24/4=6=5+1

 p=7では

  x |0,1,2,3,4,5,6

  x^3|0,1,1,6,1,6,6

となって,x^3=aを満たすF5の元xの個数を求めると,a=0なら1個,a=1,6なら3個,a=2,3,4,5なら0個となります.

x\y 0 1 2 3 4 5 6

0 (0,0,0) (0,1,1) (0,2,1) (0,3,3) (0,4,1) (0,5,3) (0,6,3)(0,1,2) (0,2,2) (0,3,5) (0,4,2) (0,5,5) (0,6,5)(0,1,4) (0,2,4) (0,3,6) (0,4,4) (0,5,6) (0,6,6)

1 (1,0,1) (1,3,0) (1,5,0) (1,6,0)(1,0,2)(1,0,4)

2 (2,0,1) (2,3,0) (2,5,0) (2,6,0)(2,0,2)(2,0,4)

3 (3,0,3) (3,1,0) (3,4,0)(3,0,5)(3,0,6)

4 (4,0,1) (4,3,0) (4,5,0) (4,6,0)(4,0,2)(4,0,4)

5 (5,0,3) (5,1,0) (5,2,0) (5,4,0)(5,0,5)(5,0,6)

6  (6,0,1) (6,1,0) (6,2,0) (6,4,0)(6,0,5)(6,0,6)

 (0,0,0)を除いた54個の解で6個ずつ組になりますから

  N7=54/6=9≠7+1

となって,Np=p+1が成り立ちません.

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 p=5とp=7で答えのパターンが違っていましたが,一般の素数pに対しては解の数はどのようになるのでしょうか? 他の場合も調べてみると 

  p  Np   p+1

  2  3    ○

  3  4    ○

  5  6    ○

  7  9    ×

  11  12    ○

  13  9    ×

  17  18    ○

  19  27    ×

 この表より,pを3で割った余りが注目されます.

1)3で割り切れる素数は3しかなく,N3=4である.

2)p=2(mod3)の場合,Np=p+1が成り立つ.

 →じつはp=3(mod2)の場合,3乗で表される数x^3=aはただひとつの解をもち,このことからすんなりNp=p+1が証明される.

3)p=1(mod3)の場合,Npは複雑である.

4)すべての素数についてNp≧3である.

 →3個の解は(0,1,1),(1,0,1),(1,p−1,0)で,等号はp=2の場合に限る.

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