■楕円曲線と弾性曲線(その15)

【楕円積分】

 楕円曲線はフェルマー予想の解決で注目された曲線で,楕円関数でパラメトライズされる曲線です.歴史的にいうと楕円関数は楕円積分を源とし,楕円積分の逆関数として導入されました.その道筋を振り返ってみることにしましょう.

 円の4分の1周の長さを求めるのに,y=(1-x^2)^(1/2)に対し,

  integral(0-1)(1+(dy/dx)^2)^(1/2)dx

を計算するとこれは

  integral(0-1)1/(1-x^2)^(1/2)dx

となります.そこで

  f(x)=1/(1-x^2)^(1/2)

  2integral(0-1)f(x)dx=3.141592・・・=π

となり,これをπの定義とし,完全円積分と呼ぶことにします.

  F(z)=integral(0-Z)f(x)dx

は不完全円積分ですが,これから

  sinω=F-1(ω),cosω=F-1(π/2-ω)

と定義すると

  sin-1z=integral(0-Z)f(x)dx

が得られます.

 P(x)を2次の多項式とするとき,

  f(x)=1/(P(x))^(1/2)

  F(z)=integral(0-z)f(x)dx は対数あるいは円関数(三角関数)になりますが,3次,4次の多項式の場合はそうはいかず,初等関数をいくら組み合わせても得られない関数が登場します.P(x)を3次,4次の多項式とするとき,F(z)は楕円積分,その逆関数F-1(z)は楕円関数と命名されています.3次でも4次でもx=1/tとおけば

  dx/{x(x-a)(x-b)(x-c)}^(1/2)=-dt/{(1-at)(1-bt)(1-ct)}^(1/2)

となりますから,本質的には同じことです.また,P(x)を5次以上の多項式とするとき,当該の関数は超楕円積分,超楕円関数と呼ばれます.

  f(x)=1/(1-x^4)^(1/2)

  u=F(z)=integral(0-z)f(x)dx

は,レムニスケート積分と呼ばれる典型的な楕円積分です.また,単振り子の振動周期や楕円の弧長を求める問題を考える場合,k[0,1]をパラメータとする

不完全積分

  f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)

  f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)

  F(z)=integral(0-Z)f(x)dx

が絡んできます.

  f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)

  K(k)=integral(0-1)f(x)dx

を第1種完全楕円積分,

  f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)

  E(k)=integral(0-1)f(x)dx

を第2種完全楕円積分と呼びます.

 これらの不定積分は初等関数では表せませんが,たとえば,第1種完全楕円積分は

  K(k)=π/2{1+(1/2k)^2+(3/8k^2)^2+(5/16k^3)^2+・・・}

とベキ級数展開できます.完全楕円積分を用いると,

楕円:x2/a2+y2/b2=1の全周は4aE(b/a)

レムニスケート:(x2+y2)2=2a2(x2-y2)の全周はroot(8)aK(1/root(2))

糸の長さlの単振り子の周期はT=4root(l/g)K(k)

したがって,振幅が小さいときT〜2πroot(l/g)と表すことができます.

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