■素数生成多項式(その31)
【4】9個の数の不思議な性質(類数1の世界)
オイラーの2次多項式において,最初のq−1個がすべて素数となるような素数q(>41)は存在するのでしょうか.もし存在するならば,そのようなqは無限にあるのでしょうか.あるいは,有限個ならば最大のqはいくつになるのでしょうか.
1966年,ベイカーとスタークは独立に類数1の虚2次体Q(√d)すなわち(d<0,dは平方因子をもたない)なる2次体をすべて決定したのですが,それによると,
−d=1,2,5,7,11,19,43,67,163
したがって,虚2次体Q(√1−4q)が類数1をもつのは,
4q−1=7,11,19,43,67,163
すなわち,
「qが素数で,2,3,5,11,17,41に限る.」
というものです.
もし,そのような素数が無限に多く存在すれば,任意の長さの素数列を生成することができるのですが,ベイカー・スタークの定理はこれが成立しないことを示していて,
fq(x)=x^2+x+41
が最も長く連続した整数点において素数値をとる多項式であるというわけです.
なお,1952年,ヘーグナーは1世紀以上も未解決だったガウスによる予想を証明しているのですが,その証明を標準的な手法で書かなかったため,長らく間違ったものとみなされていました.ところが,1966年,ベーカーとスタークがこの問題を解いたのを契機に,ヘーグナーの証明がはじめて注意深く吟味され,その証明が本質的には正しいことが明らかになりました.これでヘーグナーに対する批評が公正でないことが明らかになったのですが,残念ながら,ヘーグナーは1965年に亡くなっており,自らの名誉回復をその目で見ることはできませんでした.現在,9個の数
−d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
はヘーグナー数と呼ばれています.
この9個の数
−d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
はとても面白いもうひとつの性質をもっています.それは
x=exp(π√d)
が数値的にとても整数に近くなりうるというものです.
exp(π√43)=884736743.999777・・・
exp(π√67)=147197952743.99999866・・・
exp(π√163)=262537412640768743.99999999999925007・・・
これは決して偶然の一致ではありません.xに対しては
x−744+196884/x−21493760/x^2+・・・
がぴったり整数になることがわかっています.これらの係数は重さ0のモジュラー関数においてq→−1/xとしたものです.
xが大きいほど後半の項は小さな値となるので,x自身は極めて整数(実は立方数)に近い数になるというわけです.
exp(π√43)=960^3+744−ε
exp(π√67)=5280^3+744−ε
exp(π√163)=640320^3+744−ε
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