■素数の無限性(その16)
素数の分布は不規則かつ複雑で未知の部分が多いのですが,18世紀から19世紀にまたがって活躍したガウスは,「素数はどのような規則で現れるか」ということを考え,素数定理を予想しました(1792年:ガウスは当時15才であった).
素数定理とは,
π(x)〜x/logx (x→∞)
というものです.ここで,π(x)は任意の整数xを越えない素数の個数を表すものとします.素数定理は,xを超えない素数の個数を与える近似的な公式ですが,”〜”記号は漸近的に等しい,すなわちxが十分大きいとき両者の比が1に近づくという意味であって,両者の差がなくなるという意味ではありません.いいかえれば,この近似式の絶対誤差はxの増大とともに増大するが,相対誤差は減少する,つまり,左辺と右辺の比はxを∞にすると極限が存在して0でも無限大でもなく,1に収束する,
π(x)/(x/logx)〜1 (x→∞)
ということです.xに近い2つの連続した素数間の平均距離はおよそlogxだといってもよいでしょう.
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【1】素数定理のラフな証明
素数定理をエラトステネスのふるいという初等的な方法を用いて,ラフなスケッチ程度に誘導してみましょう.xまでのすべての整数うちで,奇数,すなわち2で割れない数は大体半分(1−1/2)あります.奇数のうちで,3で割り切れない数は2/3=1−1/3あります.さらに,残っている数のうち,5で割り切れない数は1−1/5あります.したがって,xを越えない素数の個数はこれらの積をすべての素数pにわたってとればよいことになり,近似的に
Π(1−1/p)・x
に等しくなります.さらに,Π(1−1/p)は近似的に1/logxに等しくなります.ただし,これを証明するのは微積分を使っても容易ではありません.専門的で,ここで説明することはできそうにありませんから,天下り式に結果だけを示しておきます.このことを認めれば,素数定理π(x)〜x/logxが導出されたことになります.
さらに,素数定理にはもっとうまい近似法があります.素数の密度関数はπ(x)/xですから,
π(x)/x〜1/logx (x→∞)
です.1/logxが1からxまでの平均的な素数の密度と考えられますが,これをxの近くの素数の密度と考え,区間[1,x]を小区間に区切って積分してみます.
Li(x)=∫(2,x)dt/logt
Li(x)は対数積分関数と呼ばれますが,π(x)をx/logxで近似するより,対数積分を用いたLi(x)の近似はさらに適切な素数分布の近似式になっています.
素数が無限に存在すること・√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理です.それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明していますが,その証明はだれしもが容易に理解できるものです.同様に,調和級数Σ(1/n)が無限大に発散すること
1/1+1/2+1/3+・・・=∞
も容易に示すことができます.それでは,素数の逆数の和
Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・
は有限でしょうか?
(証明)
調和級数1/1+1/2+1/3+・・・は,オイラー積表示するとΠ(1−1/p)^(-1)と書けますから,
Π(1−1/p)^(-1)〜∞
また,logΠ(1−1/p)=Σlog(1−1/p).1/pが非常に小さいとき,マクローリン展開より,Σlog(1−1/p)〜−Σ(1/p)ですから,Σ(1/p)=∞になります.したがって,すべての素数の逆数の和は発散することが示されます.
1737年,オイラーは素数の逆数の和が無限大になることを見つけました.このことから,素数が無限個あることはかんたんにわかります.また,調和級数Σ(1/n)は発散し,また,オイラー級数Σ(1/n^2)=π^2/6で収束しますから,素数は平方数ほどまばらには分布していないこともわかります.
さらに,このことを詳しく調べると,
Σ(1/p)〜log(logx) (pはp≦xの素数を動く,証明略)
などがわかってきます.log(logx)は1/(xlogx)の原始関数です.Σ(1/p)はxに近い整数について,その素因数の個数の近似値を与えるもので,ハーディーとラマヌジャンにより明らかにされています.
なお,これらの式から
Σlog(1−1/p)〜−log(logx)
がでますが,両辺の指数をとると前にあげた
Π(1−1/p)〜1/logx
が得られます.
ガウスによって基礎づけられ,これらの数学者たちが磨き上げた素数定理はいまのところ不十分かつ不完全で,所詮,概算にすぎません.どれくらい速くこの比が1に近づくのかを特定できないし,ましてやある数まで数えてゆく間にいくつ素数があるのかを正確に教えてくれはしません.そのような精密な公式があれば素数定理より断然優ることはいうまでもありません.
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【2】素数定理の再生性と平均値の定理
nとknの間にある素数の個数を,直接,素数定理から漸近表現を求めると
π(kx)−π(x)〜kx/ln(kx)−x/ln(x)
〜lx/(lnx+lnk)−x/lnx
〜(kxlnx−x(lnx+lnk))/lnx(lnx+lnk)
〜((k−1)xlnx−xlnk))/(lnx)^2(1+lnk/lnx)
〜((k−1)x/lnx−xlnk/(lnx)^2)(1−lnk/lnx)
〜(k−1)x/lnx−kxlnk/(lnx)^2
したがって,その平均値は
{π(kx)−π(x)}/(k−1)x〜1/lnx−klnk/(k−1)(lnx)^2
{π(kx)−π(x)}/(k−1)x〜1/lnx
となり,素数定理は再生性を有していることがわかる(klnk/(k−1)(lnx)^2を除いて,素数定理にほぼ等しくなる).
しかしながら,この漸近表現は,たとえばx=10,k=100のとき,
π(1000)−π(10)〜−438.637
となって,xに較べてkが小さいときしか意味ともたないことがわかる.
((k−1)xlnx−xlnk))/(lnx)^2(1+lnk/lnx)〜((k−1)x/lnx−xlnk/(lnx)^2)(1−lnk/lnx)
の誤差が大きいからである.
kが大きいときは
π(kx)−π(x)〜kx/ln(kx)−x/ln(x)
π(1000)−π(10)〜140.422
ベルトラン・チェビシェフの定理(k=2)は絶妙の間合いということになるのだろう.
なお,
π(x)=x/lnx
として,平均値の定理を適用すると
π’(x)=(lnx−1)/(lnx)^2
より,1<θ<kとして
(lnθx−1)/(lnθx)^2=kx/lnkx−x/lnx
(kx/lnkx−x/1nx)(lnθx)^2=lnθx−1
(意味があるかどうかは別にして)lnθxに関する2次方程式を解くことになる.
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