■素数の無限性(その12)
[6] (n,2n]を満たす素数が必ず存在する(チェビシェフ、1852年)
予想:(n^2,(n+1)^2]を満たす素数が必ず存在する(ルジャンドル)
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素数が一つも存在しない任意に大きな領域がある。それに対して常に1個の素数が存在する上界は
[n,2n]
である。これは弱い上界であって、十分大きなnに対して、
[n^3,(n+1)^3]
には常に1個の素数が存在する。
[n^2,(n+1)^2]
の間に常に1個の素数が存在するかどうかはわかっていない。
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【1】nと2nの間に素数がある
1845年にフランスの数学者ベルトランは任意の数nと2nの間には少なくとも一つの素数pが存在する(n<p≦2n),同じことですが素数pの次の素数は2pより小さい(pk+1 <2pk )という予想を立てました.
50年以上たって,ロシアの数学者チェビシェフがベルトランの仮説を証明しました.この証明は彼が実に18才のときだったそうですから,「栴檀は双葉よりの芳し」の諺のごとくです.チェビシェフの定理によって,素数の分布には何らかの秩序が存在していることになります.
さらに,チェビシェフは1852年に,十分大きなxについてπ(x)/(x/logx)がc1=0.92129とc2=1.10555の間にあるという結果を得ています.
c1x/logx<π(x)<c2x/logx
実はチェビシェフはもっと狭い範囲の中にも必ず素数が存在することを証明したのですが,1911年,イタリアの数学者ボノリスがnと3n/2の間にある素数の個数の近似式を導きました.
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【2】エルデシュによる初等的証明
チェビシェフは,漸近評価
c1x/logx<π(x)<c2x/logx
を得るために,オイラーによって1740年に考案されたゼータ関数(のちにリーマンがこの名前を付けた)やガンマ関数を利用しましたが,ベルトランの仮説に対しては,ずっと簡単な証明がラマヌジャンやエルデシュ(1932年,19歳)によって与えられています.
この結果を得るのには非常に巧みな組み合わせ的推論が用いられているのですが,エルデシュはまず二項係数の中央の値
cn=2nCn=(2n)!/(n!)^2
を考えます.
これは整数であり,素因数分解するとnより大きく2n以下の素数があれば,それらはすべて1乗の形の積として現れます.もしもその間に素数がなければ,n以下の素数の積で表されるはずです(実はさらに2n/3以下の素数の積なります.2n/3より大きくn以下の素数は分子に2回,分母に2回現れて約分される).
nまでの素数全体の積は大体e^n暗いというのが素数定理のひとつの表現なのですが,もっと粗く4^nというのなら数学的帰納法で容易に証明できます.nと2nの間に素数がないならおおざっぱにいって
cn≦4^(2n/3)
ですが,これはcn〜4^nという事実に反します.
以下は割愛しますが,証明の一部は不等式
2^2n/(2n+1)≦2nCn≦2^2n
に基づいています.上界はΣ2nCk=2^2nより明らか,下界は2n+1個の二項係数の中で2nCnが最大であり,平均が2^2n/(2n+1)であることから証明されます.この評価は簡単ではありますが,かなり正確です.
4^n/2≦2nCn≦4^n
[補]2nCnについては,さらに正確な評価を与える
2^2n/(2√n)≦2nCn≦2^2n/√2n
などの評価式もしばしば使われます.また,スターリングの公式を使うとより精密な結果
2nCn〜2^(2n)/√(πn)
が得られますが,この評価は数論,素数定理などとも関係しています.
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【3】ベルトランの仮説とリーマン予想の間に何がある
nと2nの間に素数がある(あるいはnが十分大きければnと1.5nの間に素数がある)は,リーマン予想=「nとn+k√nの間に素数はある」に較べればずいぶん粗い結果ですが,高度の数学を使わずにかなりの結果が導かれるという一例になっています.
なお,ルジャンドルの予想
「n^2と(n+1)^2の間に常に素数が存在する」
は未解決問題として知られています.
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