■ランダウの第4問題(その9)

 ガウスは,π(x)をx以下の素数の個数とすると,

  π(x)〜x/logx   (x→∞)

が成り立つだろうと予想しました.この予想はリーマンの研究を経て,1896年,フランスの数学者アダマールとプーサンによって証明されました.これを素数定理といいます. 今回のコラムでは素数定理の精緻化とリーマン予想の関係について述べてみることにします.

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【1】リーマン予想

 リーマンのゼータ関数について,簡単に復習しておく.ゼータ関数は,整数をわたる無限和(ディリクレ級数)

  ζ(s)=Σ1/n^s

として定義される関数である.

 また,ゼータ関数は素数全体をわたる無限積

  ζ(s)=Π(1−p^(-1))^(-1)

      =Π(1+1/p^s+1/p^2n+1/p^3n+・・・)

      =(1+1/2^s+1/2^2n+1/2^3n+・・・)(1+1/3^s+1/3^2n+1/3^3n+・・・)(1+1/5^s+1/5^2n+1/5^3n+・・・)・・・

に等しいことがわかっている.右辺

  Π(1−p^(-1))^(-1)

はディリクレ級数を丸ごと素因数分解したようなものであって,オイラー積と呼ばれる.

 ζ(s)の重要な性質(の一部)は,テータ関数に関するヤコビの恒等式

  Σexp(−πm^2/t)=√tΣexp(−πm^2t)

すなわち,

  θ(t)=Σexp(−πm^2t)

とおくと,

  θ(1/t)=√tθ(t)

およびガンマ関数

  Γ(s)=∫(0,∞)t^(s-1)exp(−t)dt

から導出される.

 これらを用いると

  ξ(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

      =∫(0,∞)1/2{θ(t)−1}t^(s/2-1)dt

      =π^(-(1-s)/2)Γ((1-s)/2)ζ(1−s)

より,関数等式

  ξ(s)=ξ(1−s)

が得られる.この対称性はs=1/2の軸に関するものであるが,1859年,リーマンはゼータ関数ζ(s)の複素零点がs=-2,-4,・・・,-2n,とs=1/2+itの線上にあるという仮説を発表した.これがかの有名なリーマン予想(1859年)である.この予想は一部に素数定理なども含む数学上の最大の難問であって,140年以上経たいまも証明されないままになっている.そのため,数学における未解決問題のうち最も難しいものと考える人も多い.

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【2】素数定理の精緻化

 リーマン予想は,一部に素数定理なども含む数学上の最大の難問であって,素数定理

  π(x)〜x/logx

を精密化する問題と考えることができる.

  Li(x)=∫(2,x)dt/logt

Li(x)は対数積分関数と呼ばれる.大きい整数は素数でありにくく,小さいものほど素数でありやすいから,π(x)をx/logxで近似するより,対数積分を用いたLi(x)の近似はさらに適切な素数分布の近似式になっている.部分積分により

  ∫(2,x)dt/logt=x/logx+1!x/(logx)^2+・・・+(m−1)!x/(logx)^m+・・・

すなわち,

  Li(x)〜x/logx

であるから

  π(x)〜Li(x)

また,

  (x/logx)’=1/logx−1/(logx)^2

から簡単にわかるように

  π(x)=Li(x)+O(x/logx)

とも書くことができる.

 素数定理はπ(x)の初項だけを求めた定理であるといえるのであるが,自然な流れとして,π(x)の第2項は何かという問題がおこってくる.誤差項

  O(x/logx)

において,x→∞のとき,logxはxに較べて十分小さいのでこれを無視して「ほぼxの1乗に等しい」と考えることができる.

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 素数定理は,ガウス以降,多くの数学者たちが証明できなかった難問であったが,ガウスの予想から約100年後の1896年,フランスの数学者アダマールとプーサンは同じ年に独立にリーマンによって複素数まで拡張されたゼータ関数を用いてガウスの素数定理を証明した.

 彼らが素数定理を証明したとき,実際に示したのは

  π(x)=Li(x)+O(xexp(−c(logx)^(1/2)))

が成り立つということである.誤差項のlogxは無視できるので,xの1乗に等しいということになる.

 この誤差項はゼータ関数の零点の非存在に依存していて,x^eと表されるとすると,ゼータ関数の零点の実部の最大値に等しくなることがわかっている.したがって,もしリーマン予想「リーマンのゼータ関数ζ(s)の実部が0と1の間にあり,零点の実部はすべて1/2である(1859年)」が正しければ,この近似を

  π(x)=Li(x)+O(x^(1/2)logx)

のようにもっとよくすることができるのである(フォン・コッホ,1901年).

 誤差項の評価式

  |π(x)−Li(x)|=O(x^(1/2)logx)

はリーマン予想の通常の述べ方とは違っているが,誤差項を可能な限り精密に記述することはリーマン予想と同値であって,素数に関する未解決問題を解くにはリーマン予想の証明が重要になってくるのである.

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