■リー群と表現(その34)

【4】SU(2)・SO(3)・スピノル

 

 A’A=E,|A|=1を満たす3×3正方行列Aは特殊直交群SO(3)をなします.また,SO(3)のリー代数は3次元の反対称行列で,

  L1 =[0,0,0] L2 =[0,0,1] L3 =[0,−1,0]

     [0,0,−1]   [0,0,0]    [1,0,0]

     [0,1,0]    [−1,0,0]   [0,0,0]

はその基底の1つです.そして,

  [L1,L2]=L3

  [L2,L3]=L1

  [L3,L1]=L2

なる交換関係が示されます.

 

 一方,SU(2)においては,

  J1=1/2[0,i] J2=1/2[0,−1] J3=1/2[i, 0]

      [i,0]     [1, 0]     [0,−i]

とすると,基底J1,J2,J3は

  [J1,J2]=J3

  [J2,J3]=J1

  [J3,J1]=J2

という交換関係を満たします.

 

 この一致はSU(2)とSO(3)の緊密な関係を示唆しているのですが,SU(2)の基底としてJ1,J2,J3を採用すると,

  R(ψ,θ,φ)=exp{ψJ1+θJ2+φJ3}

と書けることになります.

 

 ここで,x軸に関する回転行列を取り出してみましょう.すると

  Qx =exp(θJ1)

    =[cos1/2θ,isin1/2θ]

     [isin1/2θ,cos1/2θ]

が得られますが,これはSU(2)のユニタリ行列となっています.

 

 この行列はSO(3)では

  [1,0,0]

  [0cosθ,−sinθ]

  [0,sinθ,cosθ]

に対応するものですが,無限小生成子をつくると

  Lx =1/i[dQx/dθ](θ=0)

    =1/2[0,1]=1/2σx=J1

        [1,0]

となって元に戻ることがわかります.

 

 同様に

  Qy =exp(θJ2)

    =[cos1/2θ,−sin1/2θ]

     [sin1/2θ,cos1/2θ]

  Qz =exp(θJ3)

    =[exp(−i/2θ),0]

     [0,exp(−i/2θ)]

に対して,無限小生成子をつくると

  Ly=1/2σy=J2

  Lz=1/2σz=J3

これより,一般の回転を表す式は

  R(α)=exp(1/2iα・σ)

のように書けることになります.

 

 このようにして写像:SU(2)→SO(3)が得られるのですが,複素数は2変数ですから,複素数上2次元のSU(2)は実数上4次元であって,3次元球面(4次元超球の表面):S^3と同じトポロジーをもち(同相),SO(4)の部分群と考えることができます.

 

 そのため,写像:SU(2)→SO(3)

 [cos1/2θ,isin1/2θ] [1,0,0]

 [isin1/2θ,cos1/2θ]→[0cosθ,−sinθ]

                    [0,sinθ,cosθ]

において,SO(3)はSU(2)によって2重に被覆されることになります.スピノル群は特殊直交群の2重被覆群になっているというわけです.

 

 この対応関係を用いて,粒子のスピンをR^3のベクトルに対応させることができます(回転群の2価表現).こうしてスピン1/2をもつ素粒子はSU(2)の既約ベクトル空間の元によって表されるのですが,それがスピノル表現(パウリ行列の一般化)をもつということであって,ベクトルが360°回転してやると元に戻るのに対して,スピノルは360°回転させると反対向きになり,720°回転させてやるとはじめて元に戻る量となるのです.

 

 スピノルが1回転すると符号をかえるのはSO(3)に埋め込まれたSU(2)が2重被覆を与えるから・・・のごとき説明は実にややこしいのですが,現実にSU(2)の表現に属する素粒子が存在するわけで,自然界においてはSU(2)がSO(3)よりももっと基本的な群と位置づけられています.

 

 なお,ベクトルの外積はSO(3)とSU(2)の両方に群に対応するリー代数です.回転とベクトルの対応は,SO(3)の場合,次元が3でそれが作用するベクトル空間が3次元であるという偶然のおかげで都合よく同一視することができました.しかし,たとえばSO(4)では次元が6でそれが作用するベクトル空間R^4が4次元なので,そのような同一視はできません.

 

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