■リー群と表現(その31)
強い相互作用がSU(3)リー代数と関係づけられ,ユニタリー群の表現論が素粒子の対称性に用いられるようになった1959年以来,物理学者たちはより高い対称性の群を追求し始め,現在ではクォークの基本的運動状態をゲージ理論と呼ばれる理論で記述できるまでになりました.
そして,粒子の対称性を表すSU(n)のようなリー群と統合させて,ヤン・ミルズ場の理論が提唱されたのですが,電磁場はとくに一番簡単なSU(1)すなわち絶対値1の複素数exp(iθ)全体からなる乗法群の場合に相当します.また,SU(5)はSU(3)とU(1)×SU(3)を含む最小の単純群であることから,すべての素粒子の相互作用はSU(5)にぴったりあてはまることもわかってきました.
こうして,強い相互作用,弱い相互作用,電磁相互作用がひとつのリー代数に関係づけられ,大統一理論(GUT)としてまとめあげられています.現在の課題はなぜこのような性質のクォークがあるのか,その答えを求めるとともに,重力まで含めた統一的な世界像を模索している段階にあるのです.
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【1】SU(2)とパウリ行列
2次元特殊ユニタリー群SU(2)は,複素ユニタリー2×2行列で行列式1なるもの全体です.
SU(2)={GL(2,C)|A’A=E,|A|=1}
そのリー環は複素2次正方行列で
su(2)={GL(2,C)|X’~=−X,Tr(X)=0}
となる行列です.
リー群の部分空間がリー環であって,
X+X~=0,Tr(X)=0
の一般型を求めれば
X=[ix3,−x2+ix1]
[x2+ix1,−ix3]
となります.
したがって,パウリ行列
σx=[0,1] σy=[0,−i] σz=[1, 0]
[1,0] [i, 0] [0,−1]
はSU(2)の基底となり,SU(2)の任意の元は基底の線形結合
σ=Xσx +Yσy +Zσz =[ Z,X−iY]
[X+iY,−Z]
で表されます.
パウリ行列では
Tr(σiσj)=2δij
δはクロネッカーのデルタで
δij=1(i=j)
=0(i≠j)
となっています.そこで,基底の規格化条件として
Tr(TiTj)=1/2δij
を課すと,基底は
Ti=σi/2
で与えられます.
T1=1/2[0,1] T2=1/2[0,−i] T3=1/2[1, 0]
[1,0] [i, 0] [0,−1]
こうしてもっとも簡単な非可換リー代数su(2)は,一般に3つの基底Tiからなる反対称交換関係
[T1,T2]=iT3
[T2,T3]=iT1
[T3,T1]=iT2
で与えられることになります.
回転群の基底はこの反対称交換関係を満たしているのですが,1925〜26年には,電子は単なる質点ではなく自転によるスピン角運動量±1/2をもつことがわかっていて,この関係は角運動量代数としてよく知られています.
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この群がsu(2)と呼ばれるものですが,基底は一意ではなく,たとえば,SO(3)の回転群に一致させるためにパウリ行列に±i/2を乗じた行列も基底となります.
J1=1/2[0,i] J2=1/2[0,−1] J3=1/2[i, 0]
[i,0] [1, 0] [0,−i]
この場合もJ1,J2,J3はsu(2)の基底をなし,su(2)の構造を完全に決定します.この基底は反対称交換関係ではなく,
[J1,J2]=J3
[J2,J3]=J1
[J3,J1]=J2
という交換関係を満たしますが,この関係は形式的にはSO(3)と同じものです.
su(2)=so(3)
すなわちリー代数として同型というわけです.
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