■リー群と表現(その26)
【3】ディンキン図形
前節では,平面を鏡映三角形で埋めつくすというユークリッド幾何学の問題を考えましたが,ルート系はn次元ユークリッド空間のベクトルの集合なので,それを平面上に図示するためには特別な工夫が必要となります.
1次独立な2つのルートα,βのなす角をθとすると,
(α,β)=|α||β|cosθ
ただし,(α,β)>0,|α|≦|β|,0<θ≦π/2としても一般性を失いません.
また,
2(α,β)/(α,α)=〈α,β〉
と略記すると,
〈β,α〉=2|β|/|α|cosθ
が成立しますから,
〈α,β〉〈β,α〉=4cos^2θ
が得られます.
ここで,ルート系の定義から,〈α,β〉は整数ですから,
4cos^2θ=0,1,2,3
したがって,
θ=π/2,π/3,π/4,π/6
に限られます.
そのとき,n次元単体の基底となるn個のベクトルの集合を
Φ={α1,α2,・・・,αn}
として,
〈αi,αj〉=2(αi,αj)/(αj,αj)=Cij
で与えられる整数をカルタン数,n次正方行列C={Cij}をカルタン行列といいます.これはαjを長さ√2のベクトルとするとき,カルタン行列は内積(αi,αj)からなるグラミアンとして定義されることを意味しています.
θ |β|/|α| 〈α,β〉 〈β,α〉 〈α,β〉〈β,α〉
π/2 − 0 0 0
π/3 1 1 1 1
π/4 2 1 2 2
π/6 3 1 3 3
カルタン行列ではこの4つの場合の値のみが許されます.カタラン数はそれほど多くの値をとるわけではないので,その状況を端的に表すグラフ(ディンキン図形)を考えることができます.そして,〈α,β〉〈β,α〉,すなわち,
θ=π/2・・・・結ばない
θ=π/3・・・・辺−で結ぶ(・−・)
θ=π/4・・・・辺=で結ぶ(・=・)
θ=π/6・・・・辺≡で結ぶ(・≡・)
と定めます.
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ディンキン図形はカルタン行列に対応する平面グラフというわけですが,リー代数との関係をみてみましょう.
[1]SU(n)
SU(n)代数は古典群と呼ばれる代数のうちの一組で,SU(n+1)代数はカルタンによりAnと呼ばれたものです(An=SU(n+1)).
行列式が1のn×n複素ユニタリー行列の群SU(n)のリー代数は,エルミートでトレース0のn×n行列で生成され,それには線形独立なものがn^2−1個あります.
それらの重みはn−1次元空間で正単体,すなわち,SU(2)に対し正三角形,SU(3)に対し正四面体をなします.したがって,SU(n)のディンキン図形は
・−・−・・・−・−・
になり,SU(2)に対するディンキン図形は・,SU(3)に対しては・−・と表されます.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[2]SO(n)
SO(n)はn×n直交行列の群,すなわちn次元実ベクトル空間における回転群です.nが偶数のとき(n=2m),m個の2次元部分空間に分解でき,そのディンキン図形は
・
/
・−・−・・・−・
\
・
となります.この代数so(2m)はカルタンがDnと呼んだものです.
それに対して,n=2m+1のときのディンキン図形は
・−・−・・・=・
となり,この代数so(2m+1)はBnと呼ばれます.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[3]Sp(2n)
Aを任意の反対称n×n行列,Sを対称n×n行列,σをパウリ行列として
E(×)A,σi(×)S
の形をした2×2およびn×nエルミート行列のテンソル積(×)の形で与えられる2n×2n行列のなす群は,Sp(2n)のリー代数をなします.
Sp(2n)リー代数はカルタンがCnと呼んだもので,そのディンキン図形は
・−・−・・・=・
となります.
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行列の場合,XとT^(-1)XTを同型といいますが,リー代数の同型とは交換子積の保存(交換子の行き先が行き先の交換子となっているもの)
f([X,Y])=[f(X),f(Y)]なる条件を満たすとき,同型であることをいいます.
たとえば,
J1=1/2[0,i] J2=1/2[0,−1] J3=1/2[i, 0]
[i,0] [1, 0] [0,−i]
とすると,J1,J2,J3はsu(2)の基底をなし,
[J1,J2]=J3
[J2,J3]=J1
[J3,J1]=J2
という交換関係を満たします.
一方,
L1 =[0,0,0] L2 =[0,0,1] L3 =[0,−1,0]
[0,0,−1] [0,0,0] [1,0,0]
[0,1,0] [−1,0,0] [0,0,0]
はo(3)の基底で,
[L1,L2]=L3
[L2,L3]=L1
[L3,L1]=L2
ですから同じ交換関係をみたします.
このことからsu(2)とo(3)は同型であることがわかります.(SU(2)とO(3)は集合としては同型ではありません.念のため・・・)
同型を考慮してまとめあげると,
sl(n+1)・・・An型単純リー代数(n≧1)
o(2n+1)・・・Bn型単純リー代数(n≧2)
sp(2n)・・・・Cn型単純リー代数(n≧3)
o(2n)・・・・・Dn型単純リー代数(n≧4)
となります.これらの代数が5つの特殊な代数E6,E7,E8,F4,G2を合わせてすべての単純リー群を構成しているのです.
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