■リー群と表現(その24)

 核物理学は中性子Nと陽子Pが結合して原子核をつくる機構を研究するものです.核の中では(重力を無視すれば)3つの力が働いていて,強い力はNまたはPを互いに結びつける,電磁相互作用はP相互間の反発力,弱い相互作用は不安定核のβ崩壊を引き起こす力となっています.

 

 強い相互作用をする素粒子はハドロンと呼ばれますが,強い相互作用をするすべての粒子はクォークからできていると仮定するとうまく説明できる実験事実があり,重粒子(バリオン)は3つのクォークから,中間子(メソン)は2つのクォークからなるものと考えられています.

 

 また,アイソスピン以外にも強い相互作用で保存し,弱い相互作用では保存しないような量が存在するのですが,その1つがハイパーチャージです.強い相互作用はアイソスピンとハイパーチャージの保存によって特徴づけられるのですが,横軸にアイソスピン,縦軸にハイパーチャージをとり,対応する粒子を平面上にプロットすると正六角形を描くとなるというのが八道説です.この六角形はA2型のルート系とまったく同じもので,SU(3)対称性を物語っています.

 

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【1】リー群とリー代数(復習)

 

 転置と複素共役を組み合わせた作用を(~)で表すことにすると,実数変数行列と複素変数行列の対応は以下のようになります.

   実数             複素数

  対称行列(A’=A )  → エルミート行列(A~=A)

  直交行列(A’=A^(-1))→ ユニタリー行列(A~=A^(-1))

  反対称行列(A’=−A )→ 反エルミート行列(A~=−A)

 

 n次実変数一般線形群GL(n,R)は行列の乗法のもとで群をなすわけですが,その行列交換子で定義されるリー代数も同じ行列の集合となり,n×n行列なのでそのベクトル次元はn^2です.また,n×n複素行列GL(n,C)において,複素数は2つの実数で定義されるので,そのリー代数は2n^2次元をもつことになります.

 

 n次元直交群O(n)はA^(-1)=A’を満たす行列の集合をなし,その行列式は±1となります.O(n)のリー代数は反対称行列からなるので,次元はn(n−1)/2であることが示されます.

 

 O(n)において行列式が+1であるものは特殊直交群SO(n)なのですが,とくに,A’A=E,|A|=1を満たす3×3正方行列Aは特殊直交群SO(3)をなします.これは3次元空間の回転を表す群となります.なお,球面上の運動の有限群については5つの回転群(巡回群,正2面体群,正4面体群,正8面体群,正20面体群)=広義の正多面体群に限られることはよく知られています.→[補]

 

 ユニタリー群U(n)は,複素共役をとって転置することを意味する(エルミート共役)~を用いて,A^(-1)=A~を満たす行列の集合です.U(n)のリー代数はn×n反エルミート行列(A~=−A)ですから,n(n−1)/2個の複素数の非対角要素とn個の純虚数の対角要素からなるため,全体でn^2実次元をもちます.

 

 n次元特殊ユニタリー群SU(n)は,U(n)の行列で行列式が1のものです.SU(n)のリー代数はトレースが0の反エルミート行列からなるのですが,トレースが0という条件は自由度を1だけ減らすため,SU(n)のリー代数の次元はn^2−1となります.

 

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