■リー群と表現(その12)
強い相互作用がSU(3)リー代数と関係づけられ,ユニタリー群の表現論が素粒子の対称性に用いられるようになった1959年以来,物理学者たちはより高い対称性の群を追求し始め,現在ではクォークの基本的運動状態をゲージ理論と呼ばれる理論で記述できるまでになりました.
そして,粒子の対称性を表すSU(n)のようなリー群と統合させて,ヤン・ミルズ場の理論が提唱されたのですが,電磁場はとくに一番簡単なSU(1)すなわち絶対値1の複素数exp(iθ)全体からなる乗法群の場合に相当します.また,SU(5)はSU(3)とU(1)×SU(3)を含む最小の単純群であることから,すべての素粒子の相互作用はSU(5)にぴったりあてはまることもわかってきました.
こうして,強い相互作用,弱い相互作用,電磁相互作用がひとつのリー代数に関係づけられ,大統一理論(GUT)としてまとめあげられています.現在の課題はなぜこのような性質のクォークがあるのか,その答えを求めるとともに,重力まで含めた統一的な世界像を模索している段階にあるのです.
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【1】ルート系
n次元空間をを鏡映単体で埋めつくすというユークリッド幾何学の問題を考えます.R^nの単体に置き換えて得られるベクトルの集合が一般の階数のルート系となります.
n次元空間において高度の対称性をもったベクトルの集合がルート系なのですが,ルート系ではベクトルの間の角度は30°,45°,60°,90°またはその補角に限られるので,2次元の可能なルート系は
A2(正六角形:正三角形格子)
B2=C2(正方形)
G2(星形六角形:正6角形を2個合わせたもの)
しかありません.
正三角形モザイクからは正六角形が得られるのでA2,直角二等辺三角形モザイクは正方形の頂点と各辺の中点を結んでできるのでB2=C2,麻の葉文様はダビデの星形六角形の各頂点になっているのでG2に相当します.
sl(n,C)の1組(2個)の正規直交基底を決め,n^2−n個のルートを図示すると,sl(3,C)では2次元ユークリッド空間で正6角形が得られます.このことを高次元に拡張してみましょう.
sl(4,C)の1組の正規直交基底を決め,3次元ユークリッド空間で図示すると12個の中心対称な点を得ることができるのですが,これらを頂点とする立体は立方八面体と呼ばれる準正多面体となります.立方八面体は立方体(あるいは正八面体)の各辺の中点を結んでできる6個の正方形面と8個の正三角形面からなる14面体です.
o(2n+1,C)で同様のことを行うと2n^2個のルートは,o(5,C)のR^2の8点の場合,正方形の4個の頂点と各辺の中点4個,o(7,C)のR^2の18点の場合,立方八面体の12個の頂点と6個の正方形面の中心の点となります.
o(2n,C)には2n^2−2n個のルートがあるのですが,o(4,C)のR^2の4点は正方形の4個の頂点,o(6,C)R^2の12点は立方八面体の12個の頂点であって,sl(4,C)のルート系と同型となります.
また,sp(n,C)のルート系は2n^2個の元の集まりであって,sp(2,C)の8点はo(5,C)と同型,sp(3,C)の18点は正八面体の6個の頂点と12本の辺の中点となります.
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