■リー群と表現(その8)
【1】SU(2)とパウリ行列
2次元特殊ユニタリー群SU(2)は,複素ユニタリー2×2行列で行列式1なるもの全体です.
SU(2)={GL(2,C)|A’A=E,|A|=1}
そのリー環は複素2次正方行列で
su(2)={GL(2,C)|X’~=−X,Tr(X)=0}
となる行列です.
リー群の部分空間がリー環であって,
X+X~=0,Tr(X)=0
の一般型を求めれば
X=[ix3,−x2+ix1]
[x2+ix1,−ix3]
となります.
したがって,パウリ行列
σx=[0,1] σy=[0,−i] σz=[1, 0]
[1,0] [i, 0] [0,−1]
はSU(2)の基底となり,SU(2)の任意の元は基底の線形結合
σ=Xσx +Yσy +Zσz =[ Z,X−iY]
[X+iY,−Z]
で表されます.
パウリ行列では
Tr(σiσj)=2δij
δはクロネッカーのデルタで
δij=1(i=j)
=0(i≠j)
となっています.そこで,基底の規格化条件として
Tr(TiTj)=1/2δij
を課すと,基底は
Ti=σi/2
で与えられます.
T1=1/2[0,1] T2=1/2[0,−i] T3=1/2[1, 0]
[1,0] [i, 0] [0,−1]
こうしてもっとも簡単な非可換リー代数su(2)は,一般に3つの基底Tiからなる反対称交換関係
[T1,T2]=iT3
[T2,T3]=iT1
[T3,T1]=iT2
で与えられることになります.
回転群の基底はこの反対称交換関係を満たしているのですが,1925〜26年には,電子は単なる質点ではなく自転によるスピン角運動量±1/2をもつことがわかっていて,この関係は角運動量代数としてよく知られています.
===================================
この群がsu(2)と呼ばれるものですが,基底は一意ではなく,たとえば,SO(3)の回転群に一致させるためにパウリ行列に±i/2を乗じた行列も基底となります.
J1=1/2[0,i] J2=1/2[0,−1] J3=1/2[i, 0]
[i,0] [1, 0] [0,−i]
この場合もJ1,J2,J3はsu(2)の基底をなし,su(2)の構造を完全に決定します.この基底は反対称交換関係ではなく,
[J1,J2]=J3
[J2,J3]=J1
[J3,J1]=J2
という交換関係を満たしますが,この関係は形式的にはSO(3)と同じものです.
su(2)=so(3)
すなわちリー代数として同型というわけです.
===================================
【2】SU(3)とゲルマン行列
SU(3)は行列式が1の3×3ユニタリー行列のなす群です.λiをその基底とすると,それらはエルミート行列にとることができて,トレースが0の3×3エルミート行列になります.トレースが0の制限は行列式が1という条件からくるものです.
標準的な基底はゲルマンのλ行列で与えられます.
λ1 =[0,1,0] λ2 =[0,−i,0] λ3 =[1,0,0]
[1,0,0] [i,0,0] [0,−1,0]
[0,0,0] [0,0,0] [0,0,0]
λ4 =[0,0,1] λ5 =[0,0,−i] λ6 =[0,0,0]
[0,0,0] [0,0,0] [0,0,1]
[1,0,0] [i,0,0] [0,1,0]
λ7 =[0,0,0] λ8 =1/√3[1,0,0]
[0,0,−i] [0,1,0]
[0,i,0] [0,0,−2]
これらのうちでλ1,λ2,λ4,λ5,λ6,λ7は非対角行列であり,σx,σy,σzに新たな行と列をつけ加えたものになっています.とくにλ1,λ2,λ3の3つはSU(3)の中でアイソスピン部分群と呼ばれるSU(2)部分代数を生成します.
一方,λ3,λ8は対角行列であり,互いに交換します.
[λ3,λ8]=0
λ3と可換な基底がλ3以外に1つだけあり,それがλ8なのです.
SU(2)の場合と同様に,基底として
Tr(TiTj)=1/2δij
を満たすものを選ぶと,基底は
Tj=λj/2
となります.また,パウリのスピン行列はアイソスピン行列γiと単位行列E2から構成されるものでしたが,ゲルマン行列の場合,E2に相当するものは
λ0 =√2/3[1,0,0]
[0,1,0]
[0,0,1]
で与えられます.
===================================
SU(3)の場合,SU(2)のパウリ行列
σx=[0,1] σy=[0,−i] σz=[1, 0]
[1,0] [i, 0] [0,−1]
に対応するのがゲルマン行列であって,パウリのスピン行列に類似した8個の基底をもつのですが,一般にSU(n)のリー代数はトレース0の反エルミート行列からなり,それには線形独立なものがn^2−1個あります.
SU(2)では3個の基底(1/2σi),SU(3)では8個の基底(1/2λi),
SU(6)では35個の基底からなるのですが,その内訳は
8(1/2λ)+3(1/2σ)+8×3(1/2λσ)=35
となります.SU(mn)の基底は
m^2−1+n^2−1+(m^2−1)(n^2−1)=(mn)^2−1
というわけです.
SU(3)に対する議論はSU(2)の場合よりも少し複雑になるだけのことであって,3×3のユニタリー行列は8個の独立な基底の線形結合によって生成されます.また,SU(3)対称性については,2個の正規直交基底を決めてルートを図示すると,それは六角形のパターンに8種類の粒子を配置した有名な「八道説」のダイアグラムによって表現されることになるのです.
===================================