■平方和問題(その27)

複素数では,かけ算は回転に相当し,原点を中心とする平面上のθ回転を

  exp(iθ)=cosθ+isinθ   (オイラーの公式)

とすれば

  Z’=exp(iθ)Z

と記述できます.ここでiθは純虚数です.

それに対して,空間を回転させる行列で直交変換となっているもの,すなわち,パラメータ数が3つの「回転」かつ「直交」行列としては

  (1)オイラー角に基づくもの

  (2)ロール・ピッチ・ヨーに基づくもの

があげられます.しかし,どの回転行列を使ったとしても単純な形に表すことはできません.2次元の回転のような簡単な表示をもたないのです.

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【1】ハミルトンの四元数

 複素数は2次元平面上に存在すると考えてよい数体系であり,平面的な意味しかもちませんから,空間的な現象への応用を目指して,アイルランドの数学者ハミルトンは複素数を拡大した数体系を創造しました.

 四元数は群,環,体などの代数的構造の理論という分野の中で不可欠な役割を担ったのですが,1843年,ハミルトンが発見して以来3次元運動の力学系を記述するために使われてきて,ロケットの制御でも利用されています.また,電磁気学や相対性理論,三次元の非ユークリッド幾何学の法則を記述するのにも応用されています.

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【2】正四面体の対称性

平面の回転を表す

  cosθ+isinθ

と同じ役割をする四元数を考えると,回転軸を

  λi+μj+νk

として原点Oの回りに角θだけ回転する場合,空間の回転は四元数

  cos(θ/2)+(λi+μj+νk)sin(θ/2)

によって表されることになります.

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 これが空間の回転を表す四元数表示です.したがって,立方体の向かい合う面の中心を通る直線をi軸・j軸・k軸とみなすと,正四面体の12の対称性を四元数の点の集合として表現することができるようになります.

たとえば,軸n周りのθ回転について,単位四元数,

ω=(1+i+j+k)/2は

cos(θ/2)=1/2

  λsin(θ/2)=1/2

μsin(θ/2)=1/2

νsin(θ/2)=1/2

より,θ/2=π/3,n=(1/√3,1/√3,1/√3)

すなわち,(1,1,1)方向を軸とする120°回転に対応しています.以下同様.

 このことから,単位四元数ωを

  ω=(1+i+j+k)/2

とおけば

  ω^2=(−1+i+j+k)/2

  ω^3=−1

  ω^4=−(1+i+j+k)/2

  ω^5=(1−i−j−k)/2

  ω^6=1

より,ωは1の原始6乗根であり,4次元空間内の60°回転に対応していると考えることができます.

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