■平方和問題(その26)
【3】ハミルトン
複素数は2次元平面上に存在すると考えてよい数体系であり,平面的あるいは曲面的な意味しかもちませんから,空間的な現象への応用を目指して,アイルランドの数学者ハミルトンは複素数を拡大した数体系を創造しました.
複素数ではかけ算は回転に相当し,平面上の回転をexp(iθ)=cosθ+isinθとすればZ’=exp(iθ)Zと記述できますが,ハミルトンは3次元空間での回転を記述する試みの中から,複素数の類似である3個の実数の組からなる新しい数(x+yi+zj)を導入して,(a+bi+cj)(x+yi+zj)のような積を同じ空間内のベクトル(α+βi+γj)として表そうとしました.
しかし,空間の回転をとらえるというはじめのアイデアは失敗に終わり,結局,4次元へ跳躍することによって4個の実数の組よるなる四元数(x+yi+zj+wk)を発明しました(1843年).
四元数は複素数に似ていますが,ただ1つではなく3つの虚数をもつ数体系で,i2 =−1,j2 =−1,k2 =−1,ij=k,jk=i,ki=j,ji=−k,kj=−i,ik=−jなる性質をもち,
(x+yi+zj+wk)(x−yi−zj−wk)=x2 +y2 +z2 +w2
となります.四元数ではかけ算の交換法則は成り立ちません(ab≠ba).四則演算の法則に変更を加えない限り,3次元空間への拡張はできなかったのです.
複素数では加法,減法,乗法と0を除く除法が定義され,かつ,交換,結合,分配法則が適用できる数の集合=体と呼ばれる代数的構造をなしています.実数は体を構成しますが,有理数は最小の体を,複素数は最大の体を構成します.したがって,複素数以上に数の世界を広げようとすると,われわれがなじんでいる交換法則などのどれかが壊れてしまいます.超複素数の世界ではある規則が犠牲にされなければなりませんが,ある規則を犠牲にする段になると,最も苦痛の少ないのは乗法の交換法則だったのです.
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