■平方和問題(その24)

【4】四元数

 アイルランドの数学者ハミルトンは4個の実数の組よるなる四元数(x+yi+zj+wk)を発明しました(1843年).四元数は複素数に似ていますが,ただ1つではなく3つの虚数をもつ複素数を拡大した数体系で,

  i^2=−1,j^2=−1,k^2=−1,ij=k,jk=i,ki=j,ji=−k,kj=−i,ik=−j

なる性質をもち,

  (x+yi+zj+wk)(x−yi−zj−wk)=x^2+y^2+z^2+w^2

となります.四元数ではかけ算の交換法則は成り立ちません(ab≠ba).

[1]四元整数(リプシッツの整数)

 ハミルトンの四元数

  H=a+bi+cj+dk

において,a,b,c,dを整数に限った「四元整数」は4次元単純立方格子と同一視することができます.

 ハミルトンの四元整数環は乗法の交換法則が成り立たない非可換環ですが,4次元空間内の原点を中心とする半径√nの3次元球面上には必ず格子点があることを主張しているのが「ラグランジュの定理」であることは,このコラムでもこれまで何回か説明したとおりです.

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[2]フルヴィッツの整数とD4格子

 四元整数(リプシッツの整数)に

  (1+i+j+k)/2

を追加した数の体系を「フルヴィッツの整数」と呼びます.a,b,c,dのすべてが整数か,あるいはすべてが半整数のとき,フルヴィッツの整数なのです.フルヴィッツの整数全体は整数座標点と半整数座標点からなりますので,4次元体心立方格子であるというわけです.

 なお,

  (1+i+j+k)/2

は1の原始6乗根であり,

  ζ=ζ++++=(1+i+j+k)/2

とおくと,

  ζ^2=ζ-+++,ζ^3=−1,ζ^4=ζ----,ζ^5=ζ+---,ζ^6=1

となります.

 フルヴィッツ単数すなわち1の約数は,

  ±1,±i,±j,±k   8個

  ζ±±±±のあらゆる符号の組合せ(±1±i±j±k)/2をとった16個

の計24個あります.

 四元数ではかけ算の交換法則は成り立ちませんから,Pを2つのフルヴィッツ整数の積で表す方法は単数Uを右からかけるP=P’U,単数Vを左からかけるP=VP”の2通りあります.Pがフルヴィッツ素数のときの素因数分解はU,Vを24個のフルヴィッツ単数上を動かしたときの

  P=PU^(-1)・U,P=V・V^(-1)P

だけです.

 したがって,Qのフルヴィッツ素数への分解

  Q=P0P1・・・Pk

があるとき,

  Q=P0U1・U1^(-1)P1U2・・・Uk^(-1)Pk

も素因数分解となります.このような単数転移を除いて,フルヴィッツの整数においても素因数分解の一意性が成立します.それに対して,リプシッツ整数の分解は一意ではありません.

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