■平方和問題(その11)
ハミルトンの有名な四元数は複素数の拡張ですが,さらに,イギリスの数学者ケイリーによって8個の基底元1,i,j,k,l,m,n,oをもつ代数<八元数>も発明されました(1845年).
i^2=j^2=k^2=l^2=m^2=n^2=o^2=−1,
i=jk=lm=on=−kj=−ml=−no,
j=ki=ln=mo=−ik=−nl=−om,
k=ij=lo=nm=−ji=−ol=−mn,
l=mi=nj=ok=−im=−jn=−ko,
m=il=oj=kn=−li=−jo=−nk,
n=jl=io=mk=−lj=−oi=−km,
o=ni=jm=kl=−in=−mj=−lk
ハミルトンの四元数は乗法の交換法則を満たさない非可換体(斜体)
ab≠ba
ですが,八元数ではさらに乗法の結合法則も破れています.
a(bc)≠(ab)c
しばしば「ケイリー数体」と呼ばれますが,厳密にいうと体ではなく「体もどき」ということになります.さらに,16個の基底元をもつ同様の代数を構成しようと試みられましたが,それは成功するはずはありませんでした.
八元数は,実数単位e0と7個の虚数単位ei(i=1~7)による一次結合Σajejで表されますが,
e0ei=eie0=ei,ei^2=−1,eiej=−ejei
はよいとしても,
eiej=+ek・・・交換則
eiej=−ek・・・反交換則
の組合せは様々です.
また,結合法則に関しても
(eiej)ek=+ei(ejek)・・・結合則
(eiej)ek=−ei(ejek)・・・反結合則
の2つの場合があります.
(eiej)ek=+ei(ejek)・・・結合則
は(i,j,k)のなかに0(実数)が含まれるときと同一の番号があるときには常に成立しますが,(i,j,k)が1〜7のうちですべて異なるときは必ずしも成り立ちません.
そこで,(i,j,k)=(1,2,3),(1,4,5),(1,6,7),(2,4,6),(2,5,7),(3,4,7),(3,5,6)の場合に結合則を満たすものと決めます.この7組は3ビットの2進数で表し,各々のビットの排他的論理和をとると0になるので便利です.
(1,2,3)=(001,010,011)=0
(1,4,5)=(001,100,101)=0
(1,6,7)=(001,110,111)=0
(2,4,6)=(010,100,110)=0
(2,5,7)=(010,101,111)=0
(3,4,7)=(011,100,111)=0
(3,5,6)=(011,101,110)=0
[補]最も簡単な射影平面は,有限体Z2上の2次元射影幾何であって,ファノ平面と呼ばれています.そして,7個の点p1〜p7を(1〜7)と略記することにして,例えば,7本の直線上の3点の組を(1,2,3),(1,4,5),(1,6,7),(2,4,6),(2,5,7),(3,4,7),(3,5,6)の7組の体系は射影幾何の公理系を満たすことになります.
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[2]ケイリー整数とE8格子
八元数Σajejにおいて,係数aj(j=0~7)が
1)整数値をとるもの
をグレーブス整数と呼びます.さらに
2)半整数値の奇数倍をとるもの
3)4個が整数値,4個が半整数値の奇数倍をとるもの
を加えて,「ケイリーの(八元)整数」と呼びます.
半整数値をとる座標は0個か4個か8個です.ただし,3)において整数である番号は(i,j,k)7組に0(実数)を加えた集合および(0〜7)に対するその補集合の14組に限ります.
このような点をすべてとると,8次元空間内で隣り合う2点間の距離がすべて1の格子ができあがります.原点に隣接する点は240個あり,それらと原点を結ぶベクトルが例外型リー環のE8ルート系を表すので,この格子をE8格子といいます.
E8格子にはほかにもいくつかの構成法があり,ここではケイリー整数との関連で説明しましたが,その配列は本質的にはこの形しかありません.S^7の上の240個の点は直交変換で互いに移りうる点の組を同じものとみなすと一意なのです.
そして,8次元空間において,2個の正軸体(正8面体の拡張)と1個の正単体(正4面体の拡張)を組み合わせると空間充填形ができるのですが,ケイリー整数の作る格子がその具体形になっていて,E8はA8とD8両方を含んでいるというわけです.
ケイリーの整数の素因数分解では,フルヴィッツ整数のように単数転移だけでは一意的ではなく,結合法則の欠如も考慮しなければなりません.PU・U1^(-1)QがPQに等しいとは限らないのです.しかしながら,たとえば,P1((P2P3)P4)と(P1P2)(P3P4)の間の関係づけの正当化(メタ転移)を要求することによって一意的にできるのです.
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