■直観幾何学研究会2024(その22)

【1】リンク装置の機構学

 複数の棒を互いに結合してできる連接棒を「リンク装置」と呼びます.パンタグラフのようなリンク装置利用すると拡大・縮小が可能になりますが,たとえば,円錐曲線をすべて描けないかという発想も生まれてきます.

  [参]礒田正美編「曲線の事典」,共立出版

によれば,リンク装置の一点を直線に沿って動かすとき,与えられた直線が3本ないし4本の場合に円錐曲線を作図できるそうです.

 2次曲線のみならず高次曲線作図器も製作されていて,たとえば,ベルヌーイのレムニスケートは単純なリンク装置を使って描くことができます.これはワットの蒸気機関に応用されています.また,ポースリエの反転器は円運動を直線運動に,直線運動を円運動に変換する機構で,リンク装置の用途は多方面にわたっています.

 さらに驚いたことに

  [参]ドメイン&オルーク「幾何的な折りアルゴリズム」上原隆平訳,近代科学社

によれば,リンク装置の一点を直線や曲線に沿って動かすとき,任意の(高次)代数曲線を描くことができるそうです(ケンペの万能定理).

 尖点があってもかまわないし,いかに複雑な変化のある曲線でも描くことができます.あなたの名前をサインするリンク装置が存在するというわけです.

[補]ケンペの証明(1876年)には欠陥があったが,証明の技術的な困難さは克服されず,2002年になってカポヴィッチとミルソンにより完全に決着した.ケンペの職業は弁護士であったが,非常に優秀なアマチュア数学者でもあった.1879年には四色定理の不完全な証明をしたことで最も有名であるが,リンク装置にまつわる話もこれによく似ている.彼の証明は間違ってはいたが,全体的な考え方は非常に聡明なものであったという.

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