■整数環X(その11)
E8ルート格子の算術的な性質は,2次形式理論から,E8内のノルムnのベクトルの個数が,nの約数の立方の和に240を掛けたものであることから導かれる.
八元整数のノルム 1 2 3 4 5
その個数 240 2160 6720 17520 30240
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[1]An格子
n次元単体の辺に沿ったベクトルで生成される格子.そのベクトルをn+1次元空間内にとると,生成元は
(1,−1,0,・・・・0)
[2]Dn格子
n次元正軸体の辺に沿ったベクトルで生成される格子.生成元は
(±1,±1,0,・・・・0)
[3]E8格子
A8の辺ベクトルと,それに隣接するD8の辺ベクトルで生成される格子.A8を指数3で,D8を指数2で含む.
八元整数は成分がすべて整数の数だけでは不十分で,適当に半整数(整数+1/2)も含める必要があります.
ここで,八元整数の体系内で,除法
α=β・γ+δ,|δ|<|β|
は可能かという問題があるのですが,ケイリー(その後何人か)が代数的に証明しようとして失敗したという逸話が伝わっています.
それは可能なことをはじめて証明したのがコクセターです.その証明は幾何学的で,8次元空間内で正単体と正軸体をうまく組み合わせると空間充填可能になります.コクセターは八元整数全体をうまく結ぶと自然にその充填形ができることを証明し,β^-1αに最も近い八元整数γが1未満にあることを幾何学的に証明したことになります.
なぜなら,辺の長さが1の正単体,正軸体で頂点から最も近いのはその中心で,そこまでの距離名それぞれ
2/3<1,1/√2<1
となるからです.
代数的に証明しようとして失敗した難問が,図形的に考えれば,ほとんど自明な事実となってしまったというわけです.
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