■もうひとつの虹(その1)
【1】主虹と副虹
水滴に入射した太陽光線は屈折し,水滴の後面で全反射を受けて,でるときに再び屈折する.光線の入射角と出射角との差を虹角というが,虹は赤色光線では屈折が小さく,紫色光線では大きいために虹角が開くために起こる現象である.
赤色光線の虹角は42°42’,紫色光線は40°32’の角度をなすから,2°10’の視角のなかに,上から赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の順に配列した弧状の色帯として見える.太陽や月の視直径は約30’であるから,虹の幅は太陽(月)4個分に相当する.
また,主虹の外側にもうひとつ副虹が見える.副虹は二度全反射を受けるために生ずるものであって,赤色光線では49°46’,紫色光線では53°46’であるから,4°の視角のなかに,主虹と色の順序が逆順の虹を張る.副虹は水滴の内部で主虹より1回多く全反射を受けた光によって形成されるので,主虹ほど色は強くなく,見えないこともしばしばである.
虹は雨上がりのときに,太陽を背にして反対側の空に見えるものである.すなわち,朝なら西の空,夕方なら東の空に見える.それでは,水滴の中で3回以上の多重反射を受けた場合はどうなるのであろうか? 実は,3回反射,4回反射した場合,光は水滴の反対側に進んで行くから,夕方なら西の空にうすい3次の虹,4次の虹が存在するはずなのだが,実際には太陽光線が雨滴に遮られるために見えない.5回反射,6回反射のときは,主虹・副虹の方向にくるが,多重反射による減衰が加わって見えないのでである.
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雨が降った後に空に輝く七色の虹は,昔から人々の関心を惹いてきた自然現象である.虹がなぜできるか考察することはギリシア時代から行われ,アリストテレスが太陽の反対側にある水滴が源であることを発見した.
虹に対する科学的な説明は,デカルトの幾何光学によってなされた.幾何光学とは,光は一様な物質のなかでは直進し,障害物にあたると反射するというように,まるで光が粒子のように動くとして,光の伝播を説明するものである.この考え方は光を波動とみるホイヘンスの考え方とは大変異なるものであるが,屈折,反射など光学に関わる多くの伝播現象をよく説明できる.
デカルトは虹が水滴の内部で反射してできること,反射の仕方によって主虹と副虹が見えることを,歴史上初めて科学的に説明したものである.
また,ニュートンは1666年当時まだ24才の青年であったが,この年,<光の分散>という大発見,すなわち,太陽光線がガラスのプリズムを通ると屈折率の差によって赤から紫に至るたくさんの成分に分けられることを発見した.太陽光線は一見白色であるが,異なった光の混合物であるということは小学校の理科の教科書にも取り上げられていて,現在一般に広く認められている.
ニュートン以前には白色光こそが基本的なものと考えられていたから,そういう意味で,ニュートンの発見は従来の仮説を根底から覆す画期的なものであったと思われる.とくに目立った色だけあげて虹の7色:赤(red),橙(orange),黄(yellow),緑(green),青(blue),藍(indigo),紫(violet)というが,これらの色には相互にはっきりしたしきりがあるのではなく,連続的に変化する無数の異なった色からなっている.
このようにして生じた美しい光の帯にニュートンはスペクトルという名称を与え,虹の色を初めて科学的に説明した.「7色の虹」と呼ばれるが,この知識の源泉はニュートンに拠っているのである.
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