■スターリングの公式(その16)
[1]体積近似の難しさ
単位球B^nのなかの凸多面体Pで,頂点数がnの多項式になっているものは,どれも球の体積を近似しないことが知られている.頂点数がnに関して指数関数的でない限り,体積近似しないのである.
一方,球体による多面体の体積近似を考える.たとえば,1辺の長さが1の正単体の内接球,外接球の半径はそれぞれ,
1/√2n(n+1),√n/2(n+1)
で,その比は1:nである.したがって,多面体Pは内側と外側から相似比1:nの相似な楕円体で近似できる.中心対称な場合は相似比を1:√nに改善できる.どちらの比も最善である.一般の場合は正単体を,中心対称な場合は立方体を考えればよい.
しかし,外接球の体積は常に正多面体の体積より大きく,n−1次元面の中心を通る内接球は常に正多面体の体積より小さいのであって,この球体(楕円体)による多面体(凸体)の近似に要求されている精度は極めて低い.
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[2]球体による多面体の近似
n次元正多面体は外接球と中接球,内接球をもつ.これは0次元面の中心,1次元面の中心,・・・,n−1次元面の中心を通る球という意味である.外接球の体積は常に正多面体の体積より大きく,n−1次元面の中心を通る内接球は常に正多面体の体積より小さい.したがって,正多面体の体積をよく近似する球は,1次元面の中心,・・・,n−2次元面の中心を通る球のいずれかということになる.
準正多面体は外接球と中接球をもつが,内接球はもたない.これは頂点,辺の中心を通る球をもつが,n−1次元面の中心までの距離は面によって異なっているので,内接球はもたないという意味である.2次元面の中心,・・・,n−2次元面の中心を通る球を考えているわけではないので,正多面体の場合とは意味合いが異なる.
これまで検討してきたことは,n−1次元面の中心を通る球は空間充填2^n+2n面体の場合2種類,空間充填2(2^n−1)面体の場合n種類あるが,スターリング近似の意味で最も多面体の体積をよく近似する内接球,すなわち,前者では2種類からひとつ,後者ではn種類からひとつ選び,近似度の評価を行いたいわけである.
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[3]概近似多面体
ここで,要求する近似度の度合いはスターリング近似に匹敵するほど,極めて厳しい要求といえる.この近似度は,スターリングの公式
n!/n^n〜√(2πn)exp(−n)
との乖離度でもって評価することができる.もし,当該の内接多面体がこの精度を満足したら,それはとんでもなく,希有な例といえるだろう.
空間充填2^n+2n面体では,
n!/n^n〜c(π/8)^n
空間充填2(2^n−1)面体では,
n!/n^n〜c√n(π/8)^n
となって,2(2^n−1)面体は面数が増えた分,近似度が増加した.
どちらも「スターリングの公式を概ね近似する多面体」になっていて,スターリング近似との違いは概ね
πe=8.539・・・
π/8〜1/e
に負っていることがわかる.
3^n−1面体では,近似度はもっと増大すると思われるが,肝心の体積の一般式がまだ計算できていない.そもそも体積を計算できる多面体自体がごく小数なので,このこと自体が証明の対象になりうるのかわからないが,事実だけを述べると「スターリングの公式を概ね近似する多面体」を構成したということなのであろう.
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