■素数もろもろ(その15)
【2】整数環とイデアル
正の整数では素因数分解の一意性が成り立ちますが,扱う数の範囲を広げると,既約因子の積に2通りに表されるような状況を生じます.たとえば,扱う数の範囲を整数から,
Z(√−5)={a+b√−5|a,bは整数}
にまで拡げると,
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
2,3は素数ですし,
1+√−5,1−√−5
はいずれも
a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」です.
この状況に対して,これはまだ分解が足りないためだと考えることもできます.すなわち,2,3,1±√−5は素数でなく,さらに究極の数α,β,γ,δがあって,
2=αβ,3=γδ,1+√−5=αγ,1−√−5=βδ
となっていて,
6=αβγδ
が6の素因数分解となるという考え方をクンマーの理想数の理論といいます.もちろん,α,β,γ,δはZ(√−5)の中には存在しません.素因数分解したときの素因数がすべて含まれている集合を考えるのです.
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Q(√d)の整数環をいかに定義すべきかが確定すると,次に,いかなるdに対してA(ω)は一意分解環になるのかが問題となります.Q(√d)の整数環A(ω)が必ずしも一意分解環でないことに最初に気づいたのは,ディリクレでした.
そこで,有理数体Qの場合に考えたことを2次体Q(√d)に場合に拡張することを考えます.とくに,Qにおける素数の概念を拡張して,一般の代数体Kに素イデアルを導入します.
「任意の自然数は素数の積に書ける.しかも順序を除けばその書き方は1通りである(初等整数論の基本定理)」の拡張が,いわゆるデデキントのイデアル論であり,「Qの素数pを1つ固定すると,素数pは代数体の整数環における素イデアルの積に分解される(イデアル論の基本定理)」ことになります.
素イデアルをp1,・・・,pkとして,素数pが
p=p1^e1・・・pk^ek
と分解されるとき,eiを素イデアルpiの分岐指数といい,ei>1のときpiは分岐するといい,ei=1のときpiは不分岐,また,pに対してはあるpiが分岐するときpは分岐する,どのpiも不分岐のときpは不分岐といいます.
また,一般のn分体では,piの次数をfiとすると
n=e1f1+e2f2+・・・+enfn
という関係があり,したがって,2次体の場合,素数pは
p=p^2,N(p)=p (分岐)
p=pp',N(p)=p (完全分解)
p=p,N(p)=p^2 (pは2次体でも素)
のように分解することになります.
2次体Q(√d)の判別式Dは
d=2,3(mod4) → D=4d
d=1(mod4) → D=d
となることは前述したとおりですが,素数pがいつ分岐しまた完全分解するかを調べると,有理素数は次のように分解します.
[1]d=2,3(mod4),D=4d
(1)p|D → p=p^2,N(p)=p
(2)(d/p)=+1 → p=pp',N(p)=p
(3)(d/p)=−1 → p=p,N(p)=p^2
[2]d=1(mod4),D=d
(1)p|D → p=p^2,N(p)=p
(2)p≠2,(d/p)=+1 → p=pp',N(p)=p
(3)p≠2,(d/p)=−1 → p=p,N(p)=p^2
(4)p=2,d=1(mod8) → 2=pp',N(p)=p
(5)p=2,d=5(mod8) → 2=p,N(p)=2^2
ここで,(d/p)はルジャンドルの記号で,
(d/p)=+1
はdがpを法とする平方剰余であることを示しています.すなわち,x^2=d(modp)の解の有無によって,解のあるときdをpの平方剰余,ないとき平方非剰余といい,
(d/p)=−1
と表されます.
この結果から2次体Q(√d)でpが分岐するための必要十分条件は
p|D
であることがわかります.割れなければpはQ(√d)で不分岐です.
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