■素数もろもろ(その3)

【3】単数

 

 単位元「1」の約数を単数といいます.

 

[1]ガウスの整数

 a,bを整数として

  a+bi

で表される複素数が「ガウスの整数」です.すべてのガウス整数を約す整数が「単数」で,

  ±1,±i

の4個の単数があります.

 

 素数は複素数体でも定義されますが,数論の教えるところによると,複素数体においても,単数を除いて,素因数分解の一意性が成立します.4k+3型素数はやはりガウス素数ですが,2および4k+1型素数はガウス素数の積に分解されるのです.

  2=(1+i)(1−i)=i(1−i)^2

  5=(1+2i)(1−2i)

  29=(5+2i)(5−2i)

 

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[2]アイゼンスタインの整数

 

 アイゼンスタインの整数は

  a+bω

と書くことができます.ここで,ωは1の虚立方根で,x^2+x+1=0の根です.それに対して,ガウス整数にはx^2+1=0が対応しています.

 アイゼンスタインの整数には,6つの単数

  ±1,±ω,±ω^2

があり,正六角形の対称性をもちます.

 

 ここにもやはり素因数分解の一意性が成立します.2および6k+5型素数はアイゼンスタイン素数ですが,3および6k+1型素数はアイゼンスタイン素数の積に分解されます.

  3=(1−ω)(1−ω^2)=(1+ω)(1−ω)^2=(1−ω)(2+ω)

  37=(4−3ω)(4−3ω^2)=(4−3ω)(7+3ω)

 

 −1の平方根は1の虚4乗根ですから,ガウス整数は円の4分体の中の整数環Z(i),アイゼンスタイン整数は円の3分体の中の整数環Z(ω)と考えることができるでしょう.

 

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[3]フルヴィッツの整数

 

 ハミルトンの四元数

  H=a+bi+cj+dk

において,a,b,c,dを整数に限った「四元整数」は4次元単純立方格子と同一視することができます.

 

 ハミルトンの四元整数環は乗法の交換法則が成り立たない非可換環ですが,4次元空間内の原点を中心とする半径√nの3次元球面上には必ず格子点があることを主張しているのが「ラグランジュの定理」であることは,このコラムでもこれまで何回か説明したとおりです.

 

 四元整数に

  (1+i+j+k)/2

を追加した数の体系を「フルヴィッツの整数」と呼びます.フルヴィッツの整数全体は整数座標点と半整数座標点からなりますので,4次元体心立方格子であるというわけです.

 

 なお,

  (1+i+j+k)/2

は1の原始6乗根であり,

  ζ=ζ++++=(1+i+j+k)/2

とおくと,

  ζ^2=ζ-+++,ζ^3=−1,ζ^4=ζ----,ζ^5=ζ+---,ζ^6=1

となります.

 単数すなわち1の約数は,

  ±1,±i,±j,±k   8個

  ζ±±±±のあらゆる符号の組合せをとった16個

の計24個あります.

 

 この24個は4次元空間で正24胞体をなしています.正24胞体に相当する3次元正多面体はありません.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからです.実は24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であって,例外中の例外といってもよいものなのです.

 

 この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがあります.n次元空間において高度の対称性をもったベクトルの集合がルート系なのですが,n次元正単体とn次元立方体の対称群は,それぞれAn-1,Bn(Cn)で表されます.それに対して,24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.

 

 2個の正24胞体を中心を一致させて重ねて回転させます.これはちょうど平面上でダビデの星が2つの正六角形を30°ずらして重ねたものと似ているわけですが,この対称性がF4に相当します.正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているのですが,この点もまた注目すべきものでしょう.

 

 なお,正24胞体による空間充填は4次元独特の充填形です.正24胞体の頂点は正8胞体と正16胞体の頂点をなしますから,正24胞体は3次元の菱形12面体に対応するものであって,正24胞体による4次元空間充填形は4次元版の菱形12面体による空間充填形に相当します.すなわち,それは4次元の面心立方格子といってよいものであって,正24胞体に含まれる正16胞体は互いに60°をなしますから,D4の3対性をもっているのですが,4次元の最密正則胞体充填構造D4は正24胞体で埋めつくされているときであることが知られています.

 

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