■クンマーの理想数(その6)
x^2+y^2=(x+yi)(x−yi)
x^2+2y^2=(x+y√−2)(x−y√−2)
x^2−2y^2=(x+y√2)(x−y√2)
x^2+3y^2=(x+y√−3)(x−y√−3)
ですから,それぞれ2次体
Q(i),Q(√−2),Q(√2),Q(√−3)
と関係していることは容易に想像されます.
Q(√d)の整数環をいかに定義すべきかが確定すると,次に,いかなるdに対してA(ω)は一意分解環になるのかが問題となります.
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【1】類数と素因数分解の一意性
正の整数では素因数分解の一意性が成り立ちます.また,Q(√−1)=Q(i)の世界では,
χ(5)=(−1/5)=1 (第1補充法則)
より,素数5は2つの相異なる素イデアルの積となり
5=(2+i)(2−i)
とただ1通りのイデアル分解されます.
ところが,扱う数の範囲を広げると,既約因子の積に2通りに表されるような状況を生じます.たとえば,扱う数の範囲を整数から,
Z(√−5)={a+b√−5|a,bは整数}
にまで拡げると,
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
2,3は素数ですし,
1+√−5,1−√−5
はいずれも
a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」です.
このように,もうこれ以上分解できないはずの素因数分解の仕方が2通り存在してしまう現象が起こります.Q(√d)の整数環A(ω)が必ずしも一意分解環でないことに最初に気づいたのは,ディリクレでした.
この状況に対して,これはまだ分解が足りないためだと考えることもできます.すなわち,2,3,1±√−5は素数でなく偽物の素数である,さらに究極の数α,β,γ,δがあって,
2=αβ,3=γδ,1+√−5=αγ,1−√−5=βδ
となっていて,
6=αβγδ
が6の素因数分解となるという考え方をクンマーの理想数の理論といいます.
もちろん,α,β,γ,δはZ(√−5)の中には存在しません.素因数分解したときの素因数がすべて含まれている集合を考えるのです.
{√2,(1+√−5)/√2,(1−√−5)/√2}
これらが理想素元であって,
6=2・3=√2・√2・(1+√−5)/√2・(1−√−5)/√2=αβγδ
6=(1+√−5)(1−√−5)=√2・(1+√−5)/√2・√2・(1−√−5)/√2=αδβγ
が成り立ち,いまや6の素因数分解は一意的です.
{√2,(1+√−5)/√2,(1−√−5)/√2}
を選んだのは一見場当たり的に思えますが,のちにイデアルが導入されるとこの選択はごく自然なものだったことがわかります.イデアルの世界に至れば,ただ1通りの素因数分解が成立するようになるのです.
以上は2次形式論に移すと,どのようなdに対して判別式D=dあるいはd/4の形式の同値類がただ1つになっているかということです.ガウスは証明なしにではありますが,負のdに対してA(ω)が単項イデアル環になっているものをすべて決定しています.この事実に最終的な証明が与えられたのが,1966年のベイカー・スタークの定理
『類数が1となる虚2次体Q(√d)は
−d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
しかない』
というわけです.
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